NoName

Open App
7/10/2024, 10:18:30 AM

お題 私の当たり前

「リリカちゃんは本当に、強いね。」

何の変哲もない日々の1ページ。今日もいつものように試合でヘマをした、その帰り道。自分には到底見合わない言の葉が耳に残り、唖然とする。

「…あっ!ご、ごめんね!何様?って感じだよね!!」
自分が思考と共に間を開けてしまったせいか、慌てて目前の彼が保険を入れ始めれば、自身も釣られ慌てて否定する。

「へっ!?あ、ううん!ちがうの、ほんとにリリカに言ったのかなって。ほら、今日もたくさんミスしちゃったし…だからね、無理して褒めなくても良いんだよ?」
言いたくないような言葉まで繋がって出ていってしまう。折角褒めてくれた言葉を否定するのは如何なものなのだろうかとはおもうも、発言してしまえばもう遅い。それ以上はマイナスな言葉が出てきてしまわないようにと言葉に首輪をかけるようにひゅっ、と息を吸い込めば、目線を逸らし誤魔化すように笑みを浮かべた。

「…。」
「でもリリカちゃんは、負けちゃったあともミスしちゃったあとも、諦めないで何度も立ち向かって、沢山努力もしてるでしょ。強いって、単純なパワーだけの話じゃないからさ。」
「僕はそういうリリカの頑張り屋さんなところが誰よりも強いところだと思うし、かっこいいともおもう!なー…なんて!」
気まずい沈黙の間に紡がれた言葉は、自身のことを優しく抱きしめてくれるような、暖かなものだった。嬉しさに顔が歪んでしまいそうになりながらも、「あ、ありがとう…!でも、当たり前だよ。リリカは人一倍努力しなくちゃ。」と、否定の言葉が先駆ける。信用しきれない不安の波が、当たり前のことだという意識が、包み込んでくれている手を払いのけようとしてしまうのだ。

「んええ、当たり前のことを当たり前としてやってのけることがもう既にすごいことなんだよ!!だから間違いなく、リリカちゃんは強い!」
「…!」
自身が払い退けようとした手を、この人はいとも簡単に繋ぎ直してくれる。当たり前な事をまるで栄光のように形容してくれる。自分は無意識に之を求めてしまっていたのだろうか。喜色が表情に溢れ出る。


「…ありがとう、!リリカ、もーっと頑張るから!」