『バカみたい』
就職して1年、ようやく仲良し3人組の飲み会が
行われた。久しぶりに会うふたりだが、あの頃と
変わらず楽しい時間が共有出来るのが嬉しかった。暫く飲んでいると突然美紀が言った。
「ねぇ。5年経ったら皆でハワイに行かない?」
いいね!是非そうしよう、とあの日約束してから
私は給料日になるとハワイ貯金と称して、毎月決め
た額を積み立てていった。年に一度の飲み会で
ハワイまで後何年だね、なんて話しをするのも
楽しかった。
ところが、5年目の飲み会で美紀が最近彼と一緒に
ハワイに行ったと嬉しそうに報告して来た。それを聞いた優子も、実は私も彼と先月‥と。
私はハワイ談義で盛り上がる2人に笑顔を向けながら、ひとり最後まで約束を信じていた自分がバカみたいに思えてならなかった。
『二人ぼっち』
夜7時、お隣のおばあちゃんが慌ててやって来て
お母さんと深刻な顔で話し出した。暫くして
「優花、ちょっと来て」と呼ばれた。
「お隣のおじいちゃんの具合が悪くてね、これから
お母さんが車で病院まで連れて行くから、お父さんが帰って来るまで真衣と留守番をお願いね」
保育園の妹と二人ぼっちになった。
いつも喧嘩ばかりしているがこの時ばかりは
それどころでは無い。心配顔の妹に大丈夫だよ
と言う私も本当は不安だ。外に強い風が吹く。
家がきしむ。それだけの事なのに、何か恐ろしさを感じて肩寄せあった。
「あらあら‥」
リビングで座りながらひとつの毛布にくるまるって
寝るふたりの姿を見て、お父さんとお母さんは
よく頑張ったねと小さく声を掛けた。
『夢が醒める前に』
私の誕生日にはパパとママと一緒に
食べ放題のお店に行く約束をしていたの。
朝起きるとパパが部屋来て「さあ、食べ放題に
行こう。タクシーが待ってるよ」
玄関を出ると象のタクシーが待っていて
皆で背中のカゴに乗ってゆらりゆらり揺れながら
お店に着いた頃にはもう閉店してて‥
大泣きしながら目が覚めた。ああ、夢か。
するとパパが来て「食べ放題に行こう」
パパの車でちゃんとお店に着いたから
今度はたぶん大丈夫。
焼き肉とお寿司とケーキをお皿に盛って座ると
隣の席に大好きなはっぴぃ☆ふぁいぶのユウリが!
‥え、これは夢?それとも現実?どっち?どっち?
どっちにしても夢が醒める前に、早くサインを貰うんだ!
『泣かないよ』
りにんしきって、1年生の時にもあったなぁ。
先生達は何年かしたら他の学校へ行かないといけなんいんだって。でも泉先生は関係ないよね。
だって3年生になっても絶対先生が担任だもの。
そう思って迎えた離任式。移動する先生達が
ステージに並ぶ。その中に泉先生の顔が‥
驚きと悲しみで気が付くとボロボロと泣いていた。
周りで皆も泣いていた。
「そんなに泣かないんだよ。またいつか
会える日が来るかもしれないから」
最後の帰りの会で先生は言った。
「楽しい2年間を本当にありがとう。
皆、元気で。さような‥」
最後の言葉が涙で詰まる。目頭を押さえる
先生の姿に、私達はまた号泣した。
『怖がり』
大好きだったおばあちゃん。
今はもういないけど、いつも側で
私を見守っていてくれる気がする。
皆とテレビを観ている時
妹と楽しく遊んでいる時
1人机に向かって宿題をしている時
何故かどこからかふと、視線を感じるときがある。
そんな話しを怖がりの妹にすると泣きそうに
なるけど、私はおばあちゃんがたとえお化けに
なっても会いに来てくれたら嬉しい。
あ、また。
時々、22時を過ぎると勝手に部屋の電気が
消えるの。きっとおばあちゃんが、もう遅いから
寝ようねって消してるんじゃないかな。