「どうしよう、どうしよう」
閑静な街に声が響きます。
「変なところにきてしまった。電車を寝過ごして、おりたら、見たこともない場所で。」
今日も、子羊がひとり迷いこんでしまったようです。
かわいそうなので、この世界から出るにあたっての注意点を教えてあげましょう。
絶対に後ろを振り向くな。
振り向いたら、そこには。
ぼおーん、ぼおーん。
さぁ、今日もこの時間がやってまいりました。
時計の針がかさなり、完全に夜が訪れたこの瞬間から私たちの時間が始まります。
今日は、どんな迷える子羊たちに出会えるでしょうか?
帰ることができる子もいれば、永遠にさまようことになる子もいるでしょう。
最初に注意しておきます。
後ろを振り返ってはいけませんよ。
後ろを振り向けば、連れていかれてしまうから。
さぁ、楽しいゲームの幕開けだ!
「ねぇ、僕と一緒に月にいかない?」
あなたは、そう言いました。
いかなくたって、見るだけでもいいのに。
あなたは望んでしまった。
自分でロケットをつくって月にいこうとするなんて。
私は別に月じゃなくたってよかった。
あなたと一緒にいられるなら、どこでもよかったのに。
月にいかなくっていいから、私のところに戻ってきてよ。
今日は曇りですね。
雨がふってきそうです。
でも、私曇りって好きですよ。
雨が降りそうなのに、降らない感じがとても。
それに、色も綺麗です。
灰色一色じゃないかって?
灰色にもいろんな種類があるんですよ。
今度曇りのときはよく観察してみてください。
空一面に広がる、趣の色を。
君は元気にしていますか。
君は20歳まで生きて、大往生でしたね。
台風の日に君をひろいました。
君がきてからは毎日が楽しくて、しあわせでした。
ある日には月を一緒に見上げましたね。
君はどうでしたか。
しあわせな一生でしたか。
君は私のことを虹の橋でまってくれているのでしょうか。
私も寿命をまっとうしたら君のところにいくからね。
また、君に会えるのを楽しみしています。