真夜中限定 読者不在の漫画を連載開始
何だって描ける 文字通り夢物語
内容はご自由に 展開は好きなように
瞼の向こうも こうなら良いのにね
寝ても醒めても 忙しいのは同じみたい
毎日がパレード 終わりはないよ
それは迷路 飽きた人からリタイア
少しずつ後悔を重ねて
持てなくなって 普通が難しくなった
その度に手離していくんだろう
呼吸を続けるって事
思ったより楽じゃないね
安心とは程遠い、
でも不安になるには早過ぎる。
延べられた手は、あまりにも眩し過ぎた。
それが怖かったから、手は繋げなかった。
拒んで解った。
あの人もきっと、助けが欲しかったんだ。
お互いに見えたのは、等身大の影だけだった。
夢を見て、醒めた時には、
現実は壊されていた。
タイトル【タイムマシーン】
文字数 1690文字くらい
どういう縁だったか忘れたが、私には科学者の知り合いがいる。性別は男で、歳は慥か80を越えていたと思う。傴僂のように背が曲がっており、梅干しとブルドッグを足したみたいな顔が特徴的な爺さんで、その人物を、私は博士と呼んでいる。
その博士からタイムマシーンを発明したという旨の報せを受けたので、見に行くことにした。博士の家は私の家から直線距離で約4㎞、南に下ったところにある。自転車を走らせれば10分とて掛からない距離だ。
自転車を漕ぐと、やはり10分で彼の家に着いた。邪魔にならないように建物の横に自転車を停めた。
異人館にも似た瀟洒な館は、意外にもボロボロだ。ドアは付け直したのか、比較的新しい。そのドアにつけられたノッカーを敲いてみるが、返事はなく、返ってくるのは鼓膜を震わす耳鳴りだけである。
研究所の方に居るのかと考え直した私は、研究所──ガレージを改造したもの──へ向かった。
中に入ると案の定博士がおり、やっと来たか、と胴間声を上げた。
「そのヘンテコなものが、件の発明品ですか?」
博士の側にある、高さ3m前後の、何とも形容し難い機械を指差して質す。
「うむ、これがそうだ。科学に造詣のないお前さんに仕組みを説いても無駄だろうから、実際に使って見せよう」
そう言って、博士は機械に乗り込んだ。
「このタイムマシーンはな、自身が存在する時代にしか行けん。自身が死亡した後の時代や、自身が生まれる以前の時代には行けないし、更に言うと、日付単位までしか細かく設定出来ない。つまり、今から1分後とか、1時間後の未来には行けず、一番近い未来だと翌日、過去ならば昨日になるということだ」
「随分と不便なんですね」
「だからこれから未来に行く。未来の儂なら、その欠点も克服しているだろうからな。取り敢えず、100歳の儂に会いに2044年に設定して──」
何やらガチャガチャと操作してから、では行ってくる、と言い、博士は仰々しくボタンを押した。
──しかし悲しいかな、何も起きない。
「20年後、博士は死んでるんですね」
「うむ、では2043年はどうだ?」
またガチャガチャと操作してからボタンを押すが、何も起きない。
「99歳になる前に死んでるんですね、博士」
「むむむ、ならば2042年だ!」
──また何も起きない。
そうして、1年ずつ調整するも変化はなく、19回目の応酬が繰り返された。
「博士、来年には死んでるんですね。これじゃあ、タイムマシーンの改善は無理なんじゃないですか?」
「むう、天才の儂なら1年でどうにかするだろう」
博士はどこか苛立った声で返事をする。
「2025年! どうだ‼︎」
やはり変化はない。次は今年の日付で調整を始めるが、何も起きず、日付が現代に近づくにつれて、顔を赤くし、額に血管が浮かび上がっていく。
「明日ァ!」
──変化はない。沈黙が垂れ込むと同時に、博士の顔は邏卒の如く歪み、憤慨した。
「何でだ! 儂の理論に間違いはない筈だ!」
「そうは問屋が卸さないと言うじゃないですか。タイムマシーンなんて、やはり夢物語だったんですよ」
「どうしてだ! うぬおおおおおっ」
耳を劈く怒号。だが次の瞬間、それは、うぬんっ、という何とも間抜けで、頓狂な声に変わった。どうかしたのだろうかと思っていると、博士はバランスを崩し、タイムマシーンという名の巨大な鉄屑から滑り落ちた。
「どうかしました、博士⁉︎」
慌てて駆け寄り彼の身体に触れる。
何か違和感があった。
──もしや。
鼻腔に人差し指を近づけた。
──やはりか………
博士は呼吸をしていなかった。頸に触れ、脈を確かめるも、どうやら止まっているようで、瞳孔も完全に開いていた。
怒りが度を超え、頭に血が上りすぎたのか、博士はたった今、私の目の前で死亡したのだ。
「そういうことか………」
タイムマシーンは多分成功していたのだろう。
『自分が存在する時代にしか行けない』
博士は“今日”死んだために、明日(未来)には存在しなかった。だからタイムマシーンは起動しなかったのだ──