11/4/2023, 3:06:37 PM
『哀愁をそそる』
水面は揺れ
陽は遅れて暮れ
街角へ昏れ
緋色の空は晴れ
郷愁に熟れ
知らぬ徳に焦れ
悲哀去れど
哀傷溢れど
哀愁唆れど
徳(うつくしび)
10/1/2023, 4:50:35 PM
『たそがれ』
床の軋む音
舞い上がる埃の影
足裏に刺さる木のささくれ
窓から匂う夕陽の木漏れ日
割れた白い皿の上のカビたクロワッサン
焦げついたベーコンエッグと煤まみれのフライパン
ドライフラワーの入った茶色の紙袋
枯葉の積もった狭い庭先
郵便屋が手紙をポストに入れる気配
色落ちした羽根ペン
まるで新品の濃紺色のインク
割れ目の目立つブラックオークの机
針の止まったサファイアの懐中時計
埃被った聖書
隅に走り書きの小さな童話
棚の上に無造作に置かれた水晶の破片
畳まれた布切れと編み込みのバスケット
薄暮から伸びる影
玄関の門の軋む音
9/27/2023, 2:13:45 PM
『通り雨』
はっとする冷たさに
憂鬱は攫われた
愁いしとしと流れ落ち
燈ゆらゆら灯る
率爾な雨音の報せに
閑静に苛まれた心が
ふと我に返る
喧騒まがいの序奏は
穢れを洗い流していく
8/25/2023, 4:43:23 PM
『向かい合わせ』
パラソルの影から少しはみ出た顔が太陽に照らされて
ふとした瞬間笑顔が花咲く
手元のシャアした冷たい抹茶ラテは
季節外れの桜の味
8/2/2023, 3:37:47 PM
『病室』
初めての一人旅の思い出を映す
フィルムを一枚拾い上げた
そこに映るは白い病室
頭痛と吐き気に耐えきれず
駆け込んだ空港の診療所
脱水症状だと告げられ
人生初の点滴をした
そのときぼんやり見ていた天井が
一枚の思い出のフィルムに現像されていた