たなか。

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5/3/2023, 3:24:34 AM

【優しくしないで】

そんな顔で見ないでよ。君の良い笑顔とか良い声とか見たくないし聞きたくない。結局同情だったんだろ。眼前に映る広告に対して心の中で悪態をつく。
「コンビニでも寄って帰るか。」
このお酒はいつもお疲れ様のため。このおやつはないとやっていけない気がしてしまうから。鍵の開ける音。時刻はとっくに深夜一時を回ってしまった。
「おかえり。」
「ただいま、美味そうなお酒じゃん。」
今日、あったこととか。聞かせたいこととか。いつからかそんな会話もなくなった。もしも、時計の針が巻き戻せるならそんなことにはさせなかったのに。笑顔でただいまって言って酒飲みながらお笑いに爆笑して。そんな風に出来るほど心に元気はない。
「母さんから連絡来てた。元気にしてるかって。」
「まぁ、元気なんじゃない?」
それ母さんに言いなよ、と笑われた。この人は気にしてないんだろうか。俺が言ったこと。無音にならないためのテレビが場を明るくしようとする。全く、優しくしないでほしい。
「まだ、怒ってんの。私がアンタ連れ出したこと。」
「全然。でも、連れ出したんじゃなくて誘拐でしょ。」
真面目な顔をしながらボケるなと言われて小突かれるのは何回目だろう。笑顔が不自然になってしまったのは誰のせいだろう。あの時、連れ出してなんて言わなければ君は今頃幸せになっていたかもしんないのに。
「相変わらず、この人と姉さんって顔似てるね。」
「そんな短期間で顔変わってたまるかって。あと、そんなこと言うのアンタくらいだよ。無理に戻れとか言う気ないから。ずっと、ここにいてもいいから。」
姉さんと呼べと言った若いおばさん。その優しさに甘えただけの俺。反抗期の時からうちの親は少しおかしい気がするなんて思い始めちゃって。芽生えた嫌悪感なんてものは収まることを知らなかった。
「よく、家出ること許してもらえたよね。甥っ子誘拐するような人なのに。」
笑って見せると少しだけ後ろめたそうに微笑んだ。実の姉が少しだけおかしい気がすると思っていたって誘拐した日に車の中で教えてくれた。
「いやぁ、私生活力ないからかなぁ。」
「はぁ、小間使いにしてらぁ。でも、同情なんだろ。」
心がチクりと鈍い痛みを訴えた。あの女優さんに似てる姉さんほとても美人できっと俺がいなきゃ恋人だって出来てた。
「小間使いにしてない! と思うんだけどしてたかな。あと、最後の方聞こえなかったんだけど。」
ほっとけないから仕方ないじゃんか。可愛い甥っ子にそんな顔させたくはないからさ。ぎこちなくでいいから笑ってよ。同情とかじゃなくてただ、幸せになれよって呪いとエゴじゃどうもダメらしい。

5/1/2023, 3:27:43 PM

【カラフル】

甘くて、口で遊ぶとカラカラ鳴った。カラフルなこの飴が一番好きだった。
「君がくれたから。」
君がくれたからこの飴が好きになった。優しい味で優しい色で私に色を付けた。私に春はまだですか。私の恋はどこですか。カラフルな色でカラフルな感情で私の顔を染めたんだ。

4/30/2023, 4:56:45 PM

【楽園】

いいから、早く来てよ。楽園へ連れていくため。君を甘い言葉で惹き付けた。花の匂いに誘われてくる蜂みたい。
「お馬鹿。」
「馬鹿じゃないもん、助けたくなったの。」
それで、ここに呼ばれるならきっと馬鹿。助けてなんて言ってなかったのに。君に見せたかった光は君が潰したんだよ。
「助けてって聞こえた気がしたの。」

4/29/2023, 4:15:50 PM

【風に乗って】

風に乗って走る。あの夕日の向こうへ行くんだなんて馬鹿みたいなことを言い合ってた。自転車で二人で帰って馬鹿笑いしてすぐに時間なんて過ぎて行っちゃって。暗くなってまた明日って、言えていた。
「私たちって昔は馬鹿だったんだね。」
「今もでしょ。」
今も走ろうって言ったら走ってくれるんだろうな。そう思えるから彼女は今もでしょなんて言ったんだ。彼女が気に留めるはずもない私が気にするだけの言葉。やっぱり、馬鹿かもしれない。
「今も馬鹿だったかぁ。」
「自覚あるだけいい方じゃん。」
私らはやっぱり馬鹿なんだ。今も変わらない。夕日の向こう。隣の区までも風に乗って走っていくんだ。馬鹿なことして、言いあって。変われないんだ。

4/29/2023, 7:14:21 AM

【刹那】

その刹那、息を呑む。おい、誰がこんなことしろって言ったんだよ。目の前を免許取り立てのやつが運転する車と後ろから来るなんか凄まじいやつ。
「まじかよ。なんで、俺の前で止まるんだよ。」
時は遡って、今日の朝。
「なんか、面白いこと起きねぇかな。」
「平和な暇が嬉しいって今に気づかされんだよ。」
他愛もないいつも通り過ぎる会話。高校三年生でもうほとんどみんながやることを終わらせて後は卒業するだけの日常。あー、もうすぐこんな会話も終わるんだとかいう漠然とした感覚。
「そういや、おせぇな。」
「俺にはわかる、なんか面白い匂いだぞ!」
シャレにもならない。苦笑しているとあらぬ知らせ。非日常的な求めていたものが舞い込んでくる。
「えー、志田は遅れてくる。お前らは気にせずに過ごしているように。それと、岩城、黒田、佐々木はこっちに来い。」
嫌な予感とは裏腹に岩城の顔が輝いている。佐々木も普段顔に出さないくせに少しばかり顔に期待が出ている。なんで、こんなこいつら楽しそうなんだよ。
「志田、どうしたんすか?」
「聞いたことあるか、最近有名な都市伝説。見たら身体にある形が現れるって有名な悪夢。最近、俺もテレビの都市伝説特集かなんかで見たくらいなんだけど。」
聞いたことはあった。ニュースにはしにくいものの平和な日々で取り上げるしかないんだろうなと思っていたくらいの話。この前見たのは間部先生も言っている最近話題の都市伝説だったかな。
「それがどうしたんですか。」
と、佐々木。次に担任の間部が言わんとしていることは特に考えることなく分かってしまう。
「まさか、志田がそれとか言いませんよね?」
「言いたくないとか言わないけど、そのまさかなんだわ。 志田が今日朝起きなくて親が確かめたらしい。首元にキャンディーの痣があることに。」
俺たちは全員顔を向かい合わせて間部に呼ばれた意味の答え合わせをした。岩城が嫌に楽しそうな顔をする。佐々木も少し微笑んでいるし俺も少しだけにやけてしまう。
「間部先生、俺ら志田んとこ行ってくるけど付いてくるっしょ?」
「生徒三人の監督せにゃならんからな。てか、お前らが志田のとこ行くと思ったし元々俺がいなきゃ行かせない条件。」
「そうと決まれば今すぐにでも行くしかないよな、志田ん家。」
はぁ、とため息を吐いた間部がお前らやむを得んから出席停止と言って頭を搔いていた。岩城が楽しそうに卒業前の大冒険とか言って佐々木は間部に必要な物はありそうかと確認していた。
「俺も正直分かんねぇけど、志田を助ける心づもりとピュアな心!」
こんな流れで間部の車で志田の家元まで向かう。志田の家は大きい和室のある家だった。そこに志田が寝ている。志田のお母さんも戸惑っていたようで馬鹿やる俺らの顔を見たら安心しているようだった。
「おばさん、志田ぐっすり寝てんね。」
「そうね、岩ちゃん。起きると思う?」
「今から僕らが起こしに行くんですよ。」
間部が携帯で何かを調べている間に俺らは志田の首にあるキャンディーの痣を確認した。間部の調べものが終わったらしく俺らの方に目を向けた。
「よし、そんじゃお前ら寝るぞ。」
「それが、志田の悪夢に入る方法ですか?」
「不確かではあるが、テレビで言っていたのも今、調べたものもそれしか書いていない。だから、これがダメなら志田に頑張ってもらうしかない。」
案外、入り方は簡単だった。志田の家に着く前に下準備のためと言って買っていたキャンディーのシールを志田の痣と同じ場所に貼る。このシール夢に入るためだったのか、と三人で感心する。それで、シールを貼り終えた俺たちは川の字になって眠りにつく。意識が飛ぶのは一瞬だった。目を開けると志田の家ではない別の場所。
「成功したんだ。」
「不確かではあったけどまさかマジで成功するとはな。」
起き上がった俺の隣に間部が立つ。岩城と佐々木も立って辺りを見回していた。しかし、見覚えありそうでなさそうな場所。すると、俺らの後ろに人影。
「お前ら、先生まで何で来てんだよ。」
志田の声だった。振り返るといつもと変わらない志田が立っていた。
「お前の目覚ましに!」
元気に告げる岩城の肩を志田が押して岩城が尻もちをつく。志田の方を見るとやっちまったみたいな見たこともないような深刻そうな顔をしていた。
「何すんだよ!」
一瞬の出来事に岩城が叫ぶ。無理もない。皆が志田の方を見ると志田が笑い始めた。馬鹿笑いというよりはどこか乾いた笑い。
「俺、逃げるために此処来てんだわ。帰る気ねぇから。じゃあな。」
そう言って、志田が俺らの目の前から消えていく。
「何だよ、それ。」
珍しく佐々木が冷たい声を出していた。岩城は信じられないといった様子で志田がいなくなった後を見つめていた。
「都市伝説なのに有名で戻って来ないとか言われてた原因、分かったな。」
「現実から逃げるために悪夢と呼ばれる場所に来た。てか、悪夢って本人視点じゃなくて戻って来ないから他者にとっての悪夢って。」
「残酷。」
「皆して何辛気臭い顔してんの?」
岩城が立ち上がって俺らの顔を覗き込みながら言う。何だろ、この気持ち。岩城には感じたことねぇのに。
「俺ら、志田を起こしに来たんじゃん。おばさんにも約束したし。」
「何が起こしに来た、だよ。志田は出たがってない。俺も今お前といるとダメになりそう。でも、それでいいんじゃねぇの?」
佐々木が岩城の目の前に立つ。それだけ告げると志田が歩いて行ったのと同じ方向に歩いて行った。
「一回、解散してな。情報収集しよう。そんで、集まったらいいからさ。自由行動だよ、ほら修学旅行でもやったろ?」
間部がそう言って各々散策と言う形になった。俺からしてもありがたいことだった、今は。岩城の不貞腐れた顔を歩き出す前に見た。子供みてぇな顔。
どれくらい経っただろう。いつの間にか、岩城に対する感情とかは消えていて首元が痛いと思ったらシールが少し痣になりかけていた。変なの、夢だからかな。一人で歩いているとやはり見覚えのある景色。
「なんか、ゲームの世界に似てんだよな。」
昔、四人で遊んだやつ。なんか、冒険もの。キャラ選ぶときに岩城と佐々木が優柔不断出しちゃって志田と俺で笑ってた記憶あるやつ。なんか、移動手段がいっぱいあって武器とかも出てくるやつ。そうそうあとはこんくらいのモンスターな、モンスター!?
「嘘だろ。」
これで最初の場面に戻る。
「黒田! 迎えに来た!」
「なんで、間部が乗ってて免許取り立て岩城が運転しててさっきまで険悪だった志田と佐々木がいんだよ!」
混乱した。本当になんでこいつら一緒で間部が運転してないんだよ。佐々木と志田は笑ってるし。
「俺が呼んだ。」
「俺、呼ばれた!」
「調べてたらな、ゲームの世界ってわかったんだよ。で、俺が運転してなかった理由は情報収集のときに酒飲んだから。夢とはいえ都市伝説だ、どうなるか分かったもんじゃない。」
一理あるとは思った。現に、モンスターに岩城が突っ込んでくれなきゃどうなってたか分かんないし。志田は岩城がすぐに志田の匂いがすると言って見つけたらしい。匂いで見つけるってなんだ、犬か。犬なのか、岩城は。
「俺、親父のことで困ってたらプレッシャーとか跡取りとか母さんへの扱いとかお前らの悪口言われたときなんかさすがにダメで。でも、それ岩城が全部聞いてくれてさ。なんて言ったと思う?」
当の岩城の顔を見ると心底関係ないといったような顔をしていた。やっぱ、犬か。
「そんなん、遅いかもしんねぇけど卒業してからでよくない? とか言ったんだぜ。こいつらしいって笑えてきたらなんか、戻る気になったんだよ。」
「じゃあ、佐々木は?」
「岩城に誘拐された。まぁ、一人で歩いててつまんなかったし岩城に対する嫌悪感とか消えてたから。」
こっちはこっちで猫。
「さ、帰るぞ。現世に。方法は調べてある。」
たまにこの間部という男が怖くなる。マジでどうやって調べてんだよ。てか、何者だよ。まぁ、帰り方も行きと同様簡単だった。シールを剥がすだけ。
「痛くねぇよな?」
「あ、ちなみに気づいてたと思うけどこれ痣になってきてるよな。完全になったら向こうに戻れなくなるらしいぞ。」
それを聞いた岩城が有無を言わさず剥がしてこっちから消えた。俺も外して目を開けると志田の家だった。
「いい思い出になったんじゃねぇの?」
「こんな色濃い思い出会ってたまるかよ。」
やっぱ、馬鹿笑いするくらいがちょうど
「いってぇ!!!! 夢だから関係ないはずなのになんか頭いてぇ気がする!!!!」
やっぱ馬鹿笑いするくらいがちょうどいいらしい。

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