たなか。

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4/3/2023, 3:00:57 PM

【1つだけ】

真面目だとしても勉強が出来るわけじゃない。好きな子もいなければ、あいつらだってそうだ。話を聞いても惚れた腫れたの話も全くない、気がする。そんな日々が桜色に近づいたからかもしれない。
「一つだけ、お願い聞いて欲しいの。」
そこからさらに付け足して
「今は一つだけ。」
こんな、二人きりの場所に呼び出されてこんなことを言われるのもこの世に生を受けて17年。一度だってなかった。こういうとき、なんて言えばいいんだっけ。
「えっと、とりあえず聞くだけ聞く。」
これで、正解なんだろうか。分からないけれど。今はこれが正解な気がする。
「私とデートに行って欲しい。そこで、告白したいの。」
デートって付き合ってる男女がするものだと思ってた。だから、驚いただけ。特段嫌いでもなければどちらかといえば話しやすいし面白いからいっか、そう思っただけ。
「わかった、日時は?」
「今週でもいいなら今週の土曜日。午前十時に、場所は連絡するから。」
携帯を取り出して予定を確認する。ちょうど何も無い日だし天気予報は晴れだった。
「分かった、楽しみにしてる。」
これで、合ってるんだろうか。告白したことはあった、一度だけ。中学の頃、これも話しやすくて優しかった子。まぁ、振られてあいつらに笑われたけど。笑われるくらいがちょうどよかった。彼氏いたらしいし。幸い、その後も話せたのが救いかもしれない。でも、告白されたのは初めてだ。なんか、顔赤かったな。なんて、今になって少しだけ小っ恥ずかしくなる。あいつらにはまだ言わないでおこう。付き合えるかも分かんないんだし。
「お前、告白されたんだってな。」
さっき、そう思ってジュース買って帰ったらこれだ。
「俺が見てたの。たまたまトイレの帰りにさ。」
まぁ、人も通る場所だったしありえない話じゃない。そう思うとよくあそこであれ言ったな。感心してしまう。
「告白されたってか、お願いされた。」
自分でもよく分からないけど多分これで合ってる。告白する予定があるって言われただけだし何も、俺に対してなんて一言も言ってなかった。だから、違うと思う。でも、少しだけあの子の顔を思い出して期待してしまう。
「お前、ふざける時はふざけるのに真面目だからな。」
「勉強は出来ないけどな!」
ふざけんなよ、と笑いながら少しだけ小突くと俺も勉強出来ねぇからと笑い返してくれた。
「まぁでも、楽しんでこいよ。」
この反応はされると思ってなかった。でも、それだけ仲良くしてくれてる証なのかもしれない。
「ん、楽しむわ。」
本心。きっと今週は上の空で授業受けるからまた点数落ちて怒られるかもな、なんて。笑えない。あの子、頭良かったっけ。告白されるとは限らないのにもう今から頭があの子のことでいっぱいになってきた。
「今日、小テスト午後あったっけ。」
ふと思い出して呟いてみる。どうやら、当たりだったらしい。
「マジじゃん、笑えねぇわ。勉強とかしたくないけど。」
そんなこんなで、小テストやら授業やらが過ぎてすぐに週末なんて来てしまった。気合いの入ってるような、だけど結構前に話した時好きって言ってた格好。
「可愛いね、格好。前、言ってたやつだ。」
少しだけ照れたように前髪をかき分ける仕草に目を惹かれた。こんな顔は見たこと無かった。待ち合わせの時間より二人とも少しだけ早く着いてしまって。お互いを見て微笑む。なんか、幸せ。勘違いしちゃいけないことは覚えてる。
「そっちも前言ってたみたいな格好だ。でも、アクセサリーのことなんて言ってなかったのに。今日、映画付き合わせる形でごめんね?」
映画ってのは後から連絡を貰った。たまたま気になってたやつだったから二つ返事で承諾した。
「かっこつけ。昔、おじさんが親父の弟が女の子にはかっこつけた方がかっこいいだろって言っててさ。なんか、クサい台詞だなとは思うけどちょっと好きなんだよね。じゃ、行こっか。」
手を引くわけでもなく二人で目的地に歩き出す。映画は思ってたのとは違ったけどいい感じにまとまっててお昼は二人で映画の感想を言い合って白熱した。解釈を言い合って少し声が大きくなりすぎたかな、なんて二人で恥ずかしくなって。そこからはショッピングをして俺もあの子も可愛い物が好きだったから雑貨屋で意気投合してた。あっという間に帰りの時間なんてきちゃって。夜ご飯を食べて少しだけ公園行って久しぶりにブランコ乗ろうよとかはしゃいで。子どもに戻ったみたいだった。
「私と付き合ってください。」
「これさ、受け取って欲しい。」
ほぼ、同時だった。お互いの顔が見れないままどんな顔かなんて想像出来てしまう。
「俺からも一つだけお願い。この返事OKってことでこれと一緒に受け取って欲しい。」
渡したかったものは雑貨屋で見た時にお互いがこれ可愛いって意気投合した物だった。お揃いなんてこの歳になってとか思うけどそれ以上になにか今日を形に残したかったんだと思う。お互いに顔を見合わせて笑う。
「一つだけお願い聞いて欲しい。」
「何、泣いてんの。」
返事はきっとこれで合ってる。なんか、理由とかはなくてただ、そんな気がするから。
「明日、学校で挨拶するから返して欲しい。」
そこからさらに付け足して
「今は一つだけ。」
「今は一つだけのお揃い。可愛いもん好きなんだよね。」
知ってるって笑われた。それくらいがちょうどよかった。

4/2/2023, 11:36:56 AM

【大切なもの】

いつかいつかって。気づいた時には忘れてた。思い出そうとしても思い出せなくて。お友だちとか親友とか恋人とかそんな関係が怖くなったのは何時からだっけ。笑ってるようで笑ってない。そんな日々を始めたのは何時からだっけ。
「さっきから聞いてないでしょ。」
我に返るといつメングループの一人がそう私の前に顔を近づけて言っていた。綺麗な顔。
「綺麗な顔、軽率に近づけんな。恋されたいのか。まぁ、聞いてはなかったかもしれん。」
時々、アニメに出てくる人みたいなことを言うムーブ。それをこの人たちは知ってる。だから、一人がいつも世界に浸るんだからとみんなに笑いを誘ってその場を和ませる。そして、私が満足気な顔をしてまたやっとるって言って笑ってもらえる。そんな場所が居心地よかった。
「で、文化祭。劇の話。セリフ合わせ4人でやりたいねって話。今日、放課後でいい?」
話が本筋に戻って文化祭の出し物の話になる。文化祭、劇、か。なんか、忘れてる気がする。
「いいよ。てか、みんなのとこ親来るの?」
あ、これだ。忘れてたこと。演劇が好きだけど親に見せるの怖くて主役とったのに小学校の頃言わずに見せれなかったやつ。あれ、でも、近所の子のお母さんがビデオ回してて結局めちゃくちゃ褒めて貰えたんだっけ。今回も主役っちゃ主役だな。ジャン負けだけど。どれでもいいって言ったツケかな。前と配役変わらんやんって言った気がする。
「また、聞いとらん。」
パチン、頬を両手で抑えられる。だから、綺麗な顔。なんでこのいつメングループたちは綺麗な顔しかいないんだ。目の保養じゃないか。あ、でも私もその中にいるのか。
「顔、近い。」
頬をぐにゃぐにゃと遊ぶように優しく引っ張られている。されるがまま。嫌なやつなら怒ってたかも。
「で、主役のとこは親来るんって質問。」
あ、まだ言ってないな。言ってもいいのかな。
「その顔、言ってないな。よし、携帯貸して。また今回も怖いと思って言う気ないでしょ。誘っていいんだよ。来てもらっていいんだよ。そら、ビデオで見れただけよかったけどさ。生で見たいと思うよ。」
なんて、優しい声。他の二人も配役変わんないけどって笑いながら誘っていいよって言う。こんな関係が何時から大切になったんだろう。こんな関係だから大切になったんだろうけど。目頭を熱くさせる気なんてなかったんだけどな。
「泣かせるつもりじゃなかったんだけど!」
「あー、泣かせた! 練習前なのに泣かせた。鼻詰まってセリフ言えんかったらどうするよ。」
ふざけ口調で煽りあって囃し立てる。さすがに
「ふ。そんなんで練習なしとかないわ。鼻詰まってもセリフくらい言えるし。あと、携帯は貸さんからな。心配、ありがとう。」
目頭を熱くさせてからずっと私を撫でている手が止まって座っていた私の手を引いた。
「じゃあ、練習する前にジュース買いに行こうよ。」
一人が立つとみんなが立つみたいに、みんなでジュースを買いに行った。自動販売機の前まで行って二人が何にしようかと迷っている間に携帯を取り出した。
「何すんの?」
「連絡。今回は見に来んのかなって思って。そういえばさ、小学校の頃も同じ劇やっとるやんか。これって私、仕組まれた?」
わざわざ、文化祭の実行委員になってた。楽だからなんかなって思ったけど。けど、小学校からのいつメンで勉強出来ないのにみんなで頑張ろうって同じとこ入って社会に出るまでは一緒でいたいなんて希望抱えて大切にしてきた。この人たちが仕組まない訳無いなって思った。
「さぁね、私は知らないよ。ただ、小学校の頃より上手くなっとるかもしれんやん。見て欲しいんだよ。」
「嵌められたわ。」
いつかいつかって。気づかないうちに思い出してた。いや、思い出を引っ張り出された。なんだかんだ言い合って、必死こいて、笑い合うくらいに大切って。気づかされた。怖い日々のまんまにさせないのがこの綺麗な顔の綺麗な心のやつらなんだわ。だから、何故かは知らんけどずっと一緒におられるって思ったんだ。私のドラマでうつった口調とかも気にしないで平気な顔して綺麗な顔近づけてくるやつら。
「小学校の頃より主役、上手く出来るかもしれん。」
「なんだかんだいって息ぴったりだもんね、みんな。」