たなか。

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4/2/2023, 11:36:56 AM

【大切なもの】

いつかいつかって。気づいた時には忘れてた。思い出そうとしても思い出せなくて。お友だちとか親友とか恋人とかそんな関係が怖くなったのは何時からだっけ。笑ってるようで笑ってない。そんな日々を始めたのは何時からだっけ。
「さっきから聞いてないでしょ。」
我に返るといつメングループの一人がそう私の前に顔を近づけて言っていた。綺麗な顔。
「綺麗な顔、軽率に近づけんな。恋されたいのか。まぁ、聞いてはなかったかもしれん。」
時々、アニメに出てくる人みたいなことを言うムーブ。それをこの人たちは知ってる。だから、一人がいつも世界に浸るんだからとみんなに笑いを誘ってその場を和ませる。そして、私が満足気な顔をしてまたやっとるって言って笑ってもらえる。そんな場所が居心地よかった。
「で、文化祭。劇の話。セリフ合わせ4人でやりたいねって話。今日、放課後でいい?」
話が本筋に戻って文化祭の出し物の話になる。文化祭、劇、か。なんか、忘れてる気がする。
「いいよ。てか、みんなのとこ親来るの?」
あ、これだ。忘れてたこと。演劇が好きだけど親に見せるの怖くて主役とったのに小学校の頃言わずに見せれなかったやつ。あれ、でも、近所の子のお母さんがビデオ回してて結局めちゃくちゃ褒めて貰えたんだっけ。今回も主役っちゃ主役だな。ジャン負けだけど。どれでもいいって言ったツケかな。前と配役変わらんやんって言った気がする。
「また、聞いとらん。」
パチン、頬を両手で抑えられる。だから、綺麗な顔。なんでこのいつメングループたちは綺麗な顔しかいないんだ。目の保養じゃないか。あ、でも私もその中にいるのか。
「顔、近い。」
頬をぐにゃぐにゃと遊ぶように優しく引っ張られている。されるがまま。嫌なやつなら怒ってたかも。
「で、主役のとこは親来るんって質問。」
あ、まだ言ってないな。言ってもいいのかな。
「その顔、言ってないな。よし、携帯貸して。また今回も怖いと思って言う気ないでしょ。誘っていいんだよ。来てもらっていいんだよ。そら、ビデオで見れただけよかったけどさ。生で見たいと思うよ。」
なんて、優しい声。他の二人も配役変わんないけどって笑いながら誘っていいよって言う。こんな関係が何時から大切になったんだろう。こんな関係だから大切になったんだろうけど。目頭を熱くさせる気なんてなかったんだけどな。
「泣かせるつもりじゃなかったんだけど!」
「あー、泣かせた! 練習前なのに泣かせた。鼻詰まってセリフ言えんかったらどうするよ。」
ふざけ口調で煽りあって囃し立てる。さすがに
「ふ。そんなんで練習なしとかないわ。鼻詰まってもセリフくらい言えるし。あと、携帯は貸さんからな。心配、ありがとう。」
目頭を熱くさせてからずっと私を撫でている手が止まって座っていた私の手を引いた。
「じゃあ、練習する前にジュース買いに行こうよ。」
一人が立つとみんなが立つみたいに、みんなでジュースを買いに行った。自動販売機の前まで行って二人が何にしようかと迷っている間に携帯を取り出した。
「何すんの?」
「連絡。今回は見に来んのかなって思って。そういえばさ、小学校の頃も同じ劇やっとるやんか。これって私、仕組まれた?」
わざわざ、文化祭の実行委員になってた。楽だからなんかなって思ったけど。けど、小学校からのいつメンで勉強出来ないのにみんなで頑張ろうって同じとこ入って社会に出るまでは一緒でいたいなんて希望抱えて大切にしてきた。この人たちが仕組まない訳無いなって思った。
「さぁね、私は知らないよ。ただ、小学校の頃より上手くなっとるかもしれんやん。見て欲しいんだよ。」
「嵌められたわ。」
いつかいつかって。気づかないうちに思い出してた。いや、思い出を引っ張り出された。なんだかんだ言い合って、必死こいて、笑い合うくらいに大切って。気づかされた。怖い日々のまんまにさせないのがこの綺麗な顔の綺麗な心のやつらなんだわ。だから、何故かは知らんけどずっと一緒におられるって思ったんだ。私のドラマでうつった口調とかも気にしないで平気な顔して綺麗な顔近づけてくるやつら。
「小学校の頃より主役、上手く出来るかもしれん。」
「なんだかんだいって息ぴったりだもんね、みんな。」