【相合傘】
私は梅雨の長雨が好きだ
特に雲の向こうにある光が透けて見える明るい雨空が好きだ
傘は差さない
雨粒が顔をパラパラと当たるのが心地よい
今朝は妻に折り畳み傘を渡された時はまたかと思った
傘は必要ないのだが、妻の心配顔を見ると受け取らざる得なかった
ふと、道の先に見知ったか顔が見えた
妻だった
片手に傘を差し、片手に畳まれた傘を持っている
迎えにきたのか…
どうやら雨に打たれる幸福な時間は終わりらしい
軽いため息とともに笑みがこぼれた
妻は私を見つけ軽く手を振り駆け寄った
やっぱり!傘差してないんだから
いいだろう?好きなんだ
ダメよ風邪ひくかもしれないじゃない
…ひかないよ
妻は私を傘にいれた
おい…
いいじゃない相合傘なんて久しぶりだわ
妻は機嫌よさげに歩き出した
まったく…
今日は、同僚に傘を貸したから、仕方なく濡れて帰ってきたと説明した
妻は、ふふんと笑うだけだった
どうやらお見通しらしい
雨粒がリズミカルに傘を打つ
あきらめて歩きだし家路についた
雨はまだ止みそうにない
【落下】
落ちる狼落とし穴
ゆらゆら揺れるゆりかごは
誰をくるんで微笑むの?
イバラの棘が痛いから
手足を取って棚に置く
早くお家に帰りたい
泣いた兎はかごの中
カラの鏡は役立たず
流す涙も掬えない
今日も誰かと遊ぼうか
覗いた井戸に石を投げ
当たったあなたが今日の鬼
【未来】
未知が来る、私は恐ろしい。
【1年前】
1年後この場所で会おう
君はそう言って去った
今、ここに君はいない
解っていた、あれはその場しのぎの言葉
解っていた、けど、その言葉にすがった
戻れるなら、あの時の君を引き留めたかった
戻れるならば、あの時の自分を張り倒したい
ともに生きる道もあったはず
だが、変わっていく君を見ていられなかった
君を、見届ける勇気がなかった
しかし何もかも過ぎてしまったこと
戻れるはずもなく、この1年を生きてきてしまった
もうすぐ君の一周忌がやってくる
【好きな本】
本が好きだった、今でも好きだ、だけど読めない。
読むとすぐ集中できなくなって、頭がくらくらする。
話にも感情が動かない。
登場人物の喜び、驚き、悲しみに共感できない。
そんな自分は何か欠陥があるのだろうか?
本が好きになりたい。
今はあの頃の気持ちはもう忘れてしまった。
冒険のようなワクワクする気持ち。
切なくて涙した気持ち。
今は無感動が怖い。
今できることはわずかな気持ちを拾って文字に残すことくらいだろうか?
他に、やり方がわからないのだ。
誰かっ!教えてくれ!