力を込めて
えい、と引っ張る。例えば重い扉やジャムの蓋。
私は握力が小さいから何事も試練だ。
今日はゼリーの蓋が開かなかった。
安物だから圧着部分が無茶に張り付けられている蓋が、固くて固くてどうしようもない。
包丁やフォークで切り込みを入れるという手がないではないけれど、もはや意地だ。
えいえいえい。んーっ。
はぁ、開かない……。
独り言を言いながら力の込めすぎで赤くなった指を擦る。
もうちょっと。頑張ろう。
えい、えい、……えーーい!
中の汁がちょっと飛んだけど、やっと剥がせた。
世の中の人はどうやってるのかなと気になる。
明日も開きますように。
過ぎた日を想う
あの頃を想うと、胸が痛い。
思い出すだけで苦しい。
あのときはまだ幼かったからと自分に言い聞かせるけれど、まだつらい。
楽しかったあのときが苦しい過去になった今、私はなるべく思い出さないようにして記憶に蓋をしている。
星座
有名な星座だとか、呪文のように繰り返されるアルタイル・ベガ・デネブだとかはなんとなく耳馴染みはあるけれど、実際の星空にそれらを幻視したことはない。
どことどこを繋げば柄杓だとか、小熊だとか、お伽噺のような話にロマンを感じなくはない。
でも図鑑上ですら動物に見えたことがないのに空を実際に見ても分からない。
星は山ほどある。好きに決めていいのなら私が好きに繋いでもいいだろう。
ほら、あそこにはあのときの丘。
ねえ、あの星はちょうど宝箱に入りそうだね。
あの雲の中で光っているの、きれいだなぁ。
個人のロマンの星座話は夜更けまで続きそう。
踊りませんか?
小さいころは踊っていた。クラシックバレエを習っていたのだ。
レオタードを着てバレエシューズで基礎練習。
しばらく踊ったらトウ・シューズを履いて振り付けをさらう。
正直、あまりうまくはなかったと思う。でも、ただ踊ると不思議と気分が高揚した。
上手に踊れるお姉さんの振りをみながら真似して足をあげたり回ったりするだけで楽しかった。
今からでも踊れるのだろうか。
まだ靴は置いてある。足のサイズは変わっていない。
定説通り2センチ小さめの19.5センチのバレエシューズ。
踊ろうか。不恰好でも不器用でも、ただ楽しく。
巡り会えたら
これをするために今まで生きてきたんだっていうものに巡り会いたい。
それは例えば趣味であったり、仕事だったり。
長い人生、体調を崩した程度のことですべてだめになってしまったなどと思いたくはない。
寛解までに十年は堅いという病気だけれど、それでもまた前を向くための希望になるようなものに巡り会えたらもう少し頑張れるような気がする。
先生は頑張るなと言うけれど、私は頑張らなければ生きていけない。
魚が絶えず泳いでいないと死んでしまうようなもの。頑張っているのだと、他ならぬ私に認めてほしいのだ。
だから、天命に巡り会えたらやっと肩の荷をおろせるような気がしている。