通り雨
いきなり降ってきて、傘を買ったところで止むような雨。やんなっちゃうよね。
でも大気中の水分が雨になるのだから、いきなりだと感じているのは私たちだけなのかもしれない。
空気が湿ってきて、蒸し暑く感じて、手がべたべたしてくる。
むわりとした重い空気に、匂いがこもってくる。
それが通り雨の合図なのかもしれない。
秋🍁
もみじの食べ歩きが好きだった。
紅葉天ぷらを齧りながら山道を歩く箕面が好きだった。
今は体調を崩して行けなそうだし、天ぷらも食べられそうにない。
第一、山に登れる体調ではない。
秋になると寂しさがつのる。
おばさまと歩いた道をまた登れる日が来るだろうか。
窓から見える景色
窓から見えたのは、駐車場と郵便ポスト。
それが入院中の私の世界だった。
夜に見えるのは夜景なんかではなく、満車の赤いランプ。
風情も何もない。やけに早い消灯時間に眠れず、そっと小さくカーテンを開けてもそれしか見えないものだからため息しか出ない。
退院した今、窓から見えるのは浦島太郎の世界。
海の楽園などではない。入院中にすっかり様変わりした新しい世界と情報が更新されていなかった自分だ。
新しい整体院、新しいスパゲッティーの店、新しい戸建て、新しい居酒屋。
まだ馴染むことができないでいる私を煌々と照らす街灯もまた新しいデザインで、居心地が悪いのは何一つ変わらないのだった。
形の無いもの
形而上の概念や知識。感情。予定。
形の無いものは数知れない。
でも、それに物理的な実在を与えるには案外簡単な方法しかない。
名前をつけ、辞書に載せ、具体的な出来事の例を挙げ、人々の間で持て囃すことだ。
だから本当に形の作りようも無いものは少ししかない。
その少しを埋めるために、今日も私は生きる。
ジャングルジム
登って、登って、登って。
てっぺんについたら降りてくる。
手にまめができるのも構わず、登った。
今は眺めるてっぺんもない。
更地に芝生が敷かれ、あの頃の名残も消えた。