5/17/2024, 4:02:42 PM
真夜中と至り
私は今キンキを犯そうとしている。
手に持った大袋にはやり方が記載され、具体的な数値が並び素材の代用案さえも提案してくる、余程不器用でない限り失敗する方が難しい。
赤いポップな書体で描かれた「カンタン!誰でも出来るシコウの一品」に間違いはないだろう。
凡人ならここで踏みとどまり時を待つ
自分の欲求に負けてしまう者は少しでもリスクを避けるため数を制限するなり、添加する素材も体に良いものをと努力をする
しかし私はそんなヤワな奴らとは違う、覚悟が違うのだ。
たった一つで満足できるものか
下拵えなど悠長に用意する時間などあるものか
ド深夜だろうと知ったことが
私は両目をかっ開き、パンパンに膨れ上がった両腕で大袋を豪快に引き裂くと、中の小袋全ての封を開ける。
さらに小さな銀袋と油の中身を特大のドンブリにぶち込み、大鍋に5つの麺の塊を熱した湯に沈めた。
素早く迅速に菜箸で解いてゆくと体積を取り戻した麺が膨らみ並々と多量の泡と共に広がる。時折吹きこぼれた湯が下火に当たり「ジュ」と熱源を殺そうとするが、すぐさま周りの火元が取り囲み延々と再生が続く。
このとき時計は2時辺りを指していた。
記載されている時間より早く火を止め、少量とは言えない熱湯をドンブリに移す、たちまち豚骨ベースのスープが容器の1/3を占め湯面には脂と解けきれなかった粉末が浮く、軽くかき回してやればほら均一。。だな。
大きな金ザルに鍋を傾ければシンクの合唱団が「ベコン、バコン」と奏でる。しっかり湯切りをして麺を丼へ移せば「至への一方通行」もとい(死期へのカウントダウン)が完成だ。
私は直ぐには起きないが後から訪れるであろうリスクを背負い、今日も「至り」への道が近くなるのを感じながら手を合わせ静かに呟いた
「頂きます」
終わり