蓼 つづみ

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11/4/2025, 12:07:47 PM

それは、空気が急にやわらぐような香りだ。
風のなかに溶けた蜜が、気づけば頬を撫でている。
甘いのに重くなく、懐かしいのに正体が掴めない。

枝のあいだで小さな橙の星々が群れて咲き、
ひとひらひとひらが、光の粒のように揺れる。
見上げれば、陽の射す木漏れ日の中で
金色の粉を散らすようだ。

香りは、過去を連れてくる。
あの日の帰り道、ランドセルと長靴と水たまり。
誰かの笑い声。手のぬくもり。

眩しい夕日の中、記憶の奥で乾いた頁をひらくように、
金木犀はそっと、季節をめくる。

題 キンモクセイ