〖10年後の私から届いた手紙〗
10年後の私から手紙が届いた。
消印が10年後なのである。
何とも奇妙なことだ。とても信じられるものではない。
しかし、手紙には見たことのない新100円玉や
10年後の日付の雑誌(まだあるんだ!)の切り抜き、
まだ存在しないお店のレシートなど、
証拠がこれでもかというほど添付されていた。
流石。私の性格を熟知している。
少しどきどきしながら手紙を開いた。
何があったのだろう。余程重大な出来事が起こったのだろうか。
しかし、文章は他愛のないものだった。
最近揚げ物がつらいから今のうちに食べておけとか、
そんなことばかりである。
未来に何が起こるかなどさっぱり分からなかった。
怪訝な顔で読み進めていくと、
手紙の最後に、私の筆跡でこう記されていた。
「これはタイムリープのテストである。
10年後まで大切に保管しておいて欲しい。」
なるほど。私が人生のネタバレをするはずがないと思っていたが、そういうことか。
私は、その手紙を大切にしまいこんだ。
たったひとつのネタバレ、
タイムリープの開発に胸を踊らせながら、
私はまた未だ来ぬ時へ行くのである。
〖バレンタイン〗
色とりどりのチョコレートを、
僕は毎年横目に見ながら通り過ぎていた。
渡す人もいないし、
自分の為に買おうとは思わない。
けれども、そこはとても素敵で、
マーケティングとはすごいものだという顔をしながら、
僕は選んでいる人を少し羨ましく感じた。
今年、僕はきらきらした売り場に足を踏み入れる。
君は、何が好きかな。
どんなものを喜んでくれるかな。
どうかずっと、
この日にわくわくできますようにと願いながら、
僕はひとつ手に取った。
〖待ってて〗
向こうに君が立っているのが見えた。
やわらかな光に包まれて、花びらが舞う中、
君がどんな表情をしているのか見えない。
もう少しで追いつくから、
もう少しで君を抱きしめてあげられるから、
もう少しだけ待ってて。
〖伝えたい〗
あなたに、伝えたいことがある。
決していい話では無い。
あなたは優しい人だから、
きっと反省して、落ち込んでしまう。
あなたを傷つけたい訳じゃない。
けれど、言いたいことが言えなくなったときが、
おしまいのときなんだろうと思う。
あなたのことが大好きで、
これからもあなたと笑顔でいたいから。
あなたに、伝えたいことがある。
〖この場所で〗
暖かな光が降り注いでいる。
足元には、柔らかな芝生と、まだ濡れている傘。
向こうに目を凝らせば、どこか懐かしい風景がぼんやりと浮かぶ。
反対側にも目を向けるが、なかなかピントが合わない。
しかし、なんだか楽しそうだ。
ふと、花びらが舞った。
そちらを向けば、ぼんやりとしていたものがひとつ、見えるようになった。
瞬く間に通り過ぎて、懐かしい風景に同化していく。
風が頬をなで、好きな香りがひとつ増える。
僕は、この場所で立ち続けている。