〖バレンタイン〗
色とりどりのチョコレートを、
僕は毎年横目に見ながら通り過ぎていた。
渡す人もいないし、
自分の為に買おうとは思わない。
けれども、そこはとても素敵で、
マーケティングとはすごいものだという顔をしながら、
僕は選んでいる人を少し羨ましく感じた。
今年、僕はきらきらした売り場に足を踏み入れる。
君は、何が好きかな。
どんなものを喜んでくれるかな。
どうかずっと、
この日にわくわくできますようにと願いながら、
僕はひとつ手に取った。
〖待ってて〗
向こうに君が立っているのが見えた。
やわらかな光に包まれて、花びらが舞う中、
君がどんな表情をしているのか見えない。
もう少しで追いつくから、
もう少しで君を抱きしめてあげられるから、
もう少しだけ待ってて。
〖伝えたい〗
あなたに、伝えたいことがある。
決していい話では無い。
あなたは優しい人だから、
きっと反省して、落ち込んでしまう。
あなたを傷つけたい訳じゃない。
けれど、言いたいことが言えなくなったときが、
おしまいのときなんだろうと思う。
あなたのことが大好きで、
これからもあなたと笑顔でいたいから。
あなたに、伝えたいことがある。
〖この場所で〗
暖かな光が降り注いでいる。
足元には、柔らかな芝生と、まだ濡れている傘。
向こうに目を凝らせば、どこか懐かしい風景がぼんやりと浮かぶ。
反対側にも目を向けるが、なかなかピントが合わない。
しかし、なんだか楽しそうだ。
ふと、花びらが舞った。
そちらを向けば、ぼんやりとしていたものがひとつ、見えるようになった。
瞬く間に通り過ぎて、懐かしい風景に同化していく。
風が頬をなで、好きな香りがひとつ増える。
僕は、この場所で立ち続けている。
〖誰もがみんな〗
誰もがみんな、たくさん走れる訳じゃない。
誰もがみんな、うまく話せる訳じゃない。
誰もがみんな、穏やかに呼吸できる訳じゃない。
「誰でもできる」なんてことはきっと無くて、
この世はどれも、
誰もがみんな、できる訳じゃないこと。