たやは

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10/7/2025, 1:32:19 PM

静寂の中心で

大学のサークル仲間5人と廃墟に肝試しに来ている。この話しを持ちかけてきた、高梨先輩は大のオカルト好きで朝からテンションが高めだ。

「ここに入るの〜。ナナ怖い〜」
「怖くなきゃ肝試しにならないだろ。ワクワクするぜ」

後輩のナナちやんの軽い口調が怖さを少しだけ和らげてくれる。
それでも怖い。
見上げれば、すぐそこに廃墟がある。
やっばり怖い。

落ちかけた屋根から伸びる壁は、黄色く変色し所々土や蔦がこびりついていた。窓ガラスも割れ、まさしく廃棄だ。

壊れた石の階段を2、3段登り玄関の取っ手に高梨先輩が手をかけ、一気に扉を開けた。
そこは玄関ホールなのか広い空間だったが、足が1つない椅子やテーブル、割れたタンスがあちらこちらに散らばっている。

「物多すぎ〜」

ナナちゃんの言う通り、玄関ホールとしは大きいはすなのに物が溢れていて足の踏み場もない状態だ。
でも、1番目につくのは、奥にある大きな螺旋階段。
玄関ホールの先にある暗い闇。光も音もない静寂の中心で白く浮かび上がる螺旋階段。

「あれ…。登るのよね」

いつも冷静な綺羅先輩の声も震えていた。

やっばり怖い。もう帰りたい。
なのに高梨先輩のウキウキした声が響いた。

「当たり前だろ。登るぞ。おい!隆は1番後ろな。」

先頭に高梨先輩、次に綺羅先輩、ナナちゃん。私、そして最後は同級生の隆くんが続き階段を登っていく。

階段を上がった先の2階は、客室なのか廊下を挟んでいくつもの扉が並んででいた。

「よーし。奥から扉1つ1つ開けていくそ」

高梨先輩の後に続き奥へ奥へと進み、1番奥の部屋の扉の取っ手に高梨先輩が手をかけ、先程と同じように一気に扉を開けた。

「え?」

扉の向こう側は、客室の扉が連なる廊下が伸びていた。

「おい!俺開けたよな。どういうことだよ」

「前に進むしかないわ。後の扉はないわ」

綺羅先輩の言葉につられ、後を振り向くが扉はなく廊下が伸びていた。

「嫌だ。怖い。怖い。帰る。そうよ帰る」

ナナちゃんはすでにに半狂乱で駆け出し、
薄ぐらい闇の中に消えて行った。

「ナナちゃん!」

慌てて名前を呼び、ナナちゃんのあとを追うがすでに姿は見えなくなっていた。

どうしょう。

「1階に降りて外に出ましょう。なにか手がかりがあるかもしれないわ」

綺羅先輩の提案により螺旋階段を探しながら前に進み、階段を降りて1階に戻ることになった。

長く続く廊下を歩く。
かなりの時間が経過したき気もするし、そうでもない気もする。

廊下の真ん中あたりに螺旋階段の円が下へと伸びでいた。
私たちは、急いで螺旋階段を降りて1階へ行くが、ナナちゃんをいなかった。

「とりあえず、進もう」

隆くんの力強い声に押され歩き出す。
また、闇の中に螺旋階段が薄っすら白く浮かび上がっていた。
その螺旋階段の脇を抜けると椅子やタンスが散らばる部屋、その奥に玄関が見えた。

「やったぜ。戻ってきた。」

高梨先輩が階段の手すりに捕まり、進もうとした時、赤い液体が先輩の腕に落ちて広がった。

「なんだ?!」

驚いた高梨先輩が螺旋の上の方を見上げれる。そこには頭から血を流し、目を見開いたナナちやんの土気色をした顔が私を見おろしていた。

「ぎやあー」

うそ。うそ。違う。違う。あれはナナちやんではない。

「キャアー」
「おい!ふざけるな!バーチャルだろこれ。こんなことあるか」

ビー。ビー。

高梨先輩の叫び声をかき消すくらい大きな警報音が響き、無機質なアナウンスが流れ始める。

Warning。Warning。
警告。警告。

バーチャル空間内での空間否定は認められていません。空間での出来事にしたがってください。できなければ、ゲームオーバーとなります。

Warning。Warning。

「ゲームオーバーだ。終わりだ。終わりにしろ」

高梨先輩がこのバーチャルゲームの終了をつげた。暗闇は一転し、白、白、白。白。
白一色の部屋で、私たちはゴーグルとヘッドホンをつけ椅子に座っていた。

ただ、隣の椅子が空いていた。
あれ?
誰かいたかな。

高梨先輩、綺羅先輩、私、隆くん。
大学のサークル仲間4人で来たよね。
なんで、椅子5個あるのかな?
うーん。ま、いいか。思い出せないし。

「まあまあ、面白かっただろ」

「そうね。肝試しなんて高梨くんの好みよね。」

「この次は、バーチャルレーシングにしましよう」

やっばり、椅子の数なんて誰も気にしていないみたい。
私も深く考えるのは辞めよう。

「お腹すきました。解散でいいですか」

「そうね。また。」

「おう。じゃあな。」

「次はレースですよ。」

私は白い部屋をでてカフェへ向かう。


待って〜。待って〜。
嫌よ。1人で廃墟に残りたくない。

              たやは