小説
迅嵐 ※SE無し
放課後、おれは教室にいるはずの嵐山を呼びに行った。
「おーい、あらしや……」
するとどうだろう、教室には嵐山と知らない女の子がいるではないか。
おれは咄嗟に身を隠す。
別にやましいことなどないはずなのに。
「嵐山くん…私、嵐山くんの事がずっと好きでした…!良かったら私と付き合ってください!」
可愛らしい声を小さく震えさせながら想いを伝える女の子は、まさに恋をする女の子そのもので。
きっと小さな顔を真っ赤に染めあげていることだろう。
「……」
嵐山は何も言わない。
心臓の音が聞こえてしまう程うるさい。
嗚呼、
「……だめ…」
どうしてこんなに苦しいのだろう。どうしてこんなに嫌なのだろう。
「……っ」
おれは、気づいてしまった。
いや、ずっと気づかないフリをしていた。
おれは、嵐山のことが、
「……告白してくれてありがとう。とても嬉しいよ。でも、すまない。君とは付き合うことができない」
「……そう…。こっちこそごめんね」
パタパタと軽い足音を立てて、女の子が教室を出ていく。こちらには気づいていないようだ。
「……迅。いつまで隠れてるつもりだ?」
「……バレてた?」
嵐山はずっと気づいていたらしい。
「…なんで告白受けなかったの」
机に腰掛けながら、目の前の色男に問うてみる。足をぶらぶらさせながら、さも興味無さげに。
「……好きな人が、いるんだ」
「……!……へぇ、そうなんだ」
あ、やばい。やってしまった。
「それって誰?おれの知ってる人?かわいい?」
混乱する頭を他所に、おれの口はペラペラとまわる。
これ以上聞いてはいけないことは理解しているのに、止まらない。止められない。
「あぁ、知ってる人だよ。……かわいい方だとは思う」
「……」
愛おしそうに目を細める嵐山をおれは直視出来なかった。
「それ、名前、聞いていい?」
もう、終わらせようと思った。気づいた事自体を無かったことにしよう。嗚呼、それがいい。おれは男だし、女の子に勝てる所なんて何一つ持ってない。滑稽だ。……さぁ笑え。笑うんだ、迅悠一。
「……いいよ」
嵐山がおれに目を向ける。キラキラ光るエメラルドがじっとおれを見据える。心做しか揺らめいて見えるのは気の所為だろうか。
「………………おまえだよ」
……?……。……、……。……??……?
え?
嵐山は端正な顔を赤らめ、ぱっと視線を逸らす。
…………おれ?
「……ぁ、」
「……好き」
ちら、とこちらに視線を寄越す嵐山。なんといじらしいことか。耳まで赤くなっていて、吸い寄せられるように手を伸ばす。
「ん……」
ぴくりと反応する嵐山の耳は火傷しそうなほど熱く、現実なのだとふと思う。
「……それ、ほんとう?」
こくりと頷くその姿におれの心臓はさっきと違う意味で暴れ始める。不安も、苦しさも、全部吹き飛んで、代わりにあるのは、
「…おれも嵐山のこと好きだよ」
驚きに見開かれたエメラルドに吸い込まれるかのように、おれは嵐山の形のいい唇に自らの唇を重ねた。