深呼吸をして
扉の前へ立つ
大丈夫大丈夫
浮いてはいない
事前に下調べはしたんだし
そう 自分に言い聞かせて
ずっと来てみたかった
この喫茶店
寡黙な店主は 優しいらしく
珈琲とサンドイッチが
美味しいらしい
大丈夫 大丈夫
初見でも
もう一度 息を深く吸って
吐いたと同時に
ドアノブを握り
扉を開いた
【力を込めて】
思い入れのある場所へ行くと
ふと 思い出に浸り
少し胸が寒くなる
良いことも悲しいことも
全てノスタルジーに
溶けていく
小さい頃 歩いたあの道
週に何回も通った あの場所
今はもうない あの店
上京して過ごした あの街
込み上げるこの正体を
受け止めには まだ脆い
【過ぎた日を想う】
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いつの間にか反応が1000を超えてました。
沢山の方が見てくださっていて大変有り難い。
このアプリの、気軽に書ける手軽さと、他の方とのの距離感が心地よくて、長く続けられている。これからも見かけましたらよろしくお願いいたします。
これは夢で
ここは花園
蝶々が舞う
ひらりひらりと
遠くで鳥が囀る
誰かを呼んでいるのか
真ん中にはティーセット
ここの主役だ
ポットを高くあげて
紅茶を注ぐのは
白い燕尾服を着た青年
頭には兎のような耳がついている
青年がにこり、と微笑み
こちらに気づく
注ぎ終えたポットを
テーブルに置いて
お茶会へと誘う
ゆっくりお茶と菓子を楽しんで
それから
【踊りませんか?】
いつも通る道の途中に
春から夏にかけて
燕が巣を作る
毎年 微妙に場所を変えていて
去年はあの家
その前の年はあの家
今年もやってきて
そして巣立っていった
秋になろうとする今が
少しさみしい
また来年の春に
【巡り会えたら】
「ピックアップ来いピックアップ来いピックアップ来いピックアップ来い」
「何ぶつぶつ言っているの、怖」
隣で友人が横にしたスマホを両手で持ちながら、眉間に皺を寄せて低い声で呟いていたので、思わず本音が出てしまった。何とでも言うが良い、と友人はスマホに視線を向けたまま、今日なのよ、と尚も低い声で続ける。
「これから推しの新規絵SSRのガチャが始まるんだよ……」
「ああ、この前ハマっているって言っていたゲームの話?」
「そう!」
私は友人の横に並び、スマホを覗き込む。白スーツを華麗に着こなしたイケメンが片手に花束を抱え、画面越しに爽やかに微笑みを浮かべている。友人曰く、普段は黒を基調とした服装を見にまとうキャラらしい。私はこのゲームをやってはいないが、確かに手元に欲しくなる絵だ。ただでさえ白スーツはカッコ良いのに、イケメンが着ようものなら鬼に金棒。さらに好きなキャラであるなら魅力も増し増しである。
あっ始まった!と友人が早速、10連と書かれた部分を指でタップする。画面が変わり、星空の背景に光の塊が10個現れた。もう一度、友人が画面をタッチするも、友人はあからさまに渋い表情になる。
「あーはいはいはい、すぐ来ないよねうん知ってる」
続けて2回、3回、と画面をタップするも友人は苦い顔を浮かべるばかり。何回も引き続けるもイケメンは来ず。あーーーもう嫌だ!とついに友人は痺れを切らした。
「このガチャ渋すぎる……ピックアップ仕事しろや……!」
「現実のガチャポンもそうだけど、欲しいやつほど引けないよね……」
「うう……物欲センサーが仕事していて笑えない」
こうなったらあんた引いてくんない?と友人が勢いをつけて私にスマホを押し付ける。
「ここは無欲な第三者の方が良い気がする!」
「ええ……良いの?最後の10回なんでしょ?」
「あんたなら行ける気がする!お願いっ」
「しょうがないなぁ……」
引けなくても文句言わないでね、と一応釘を刺しておく。力強く頷く友人を後ろに画面をタップした。すると切り替わった画面の星空が虹色に輝いた。これはもしかして!と友人は口元に両手を押さえる。
「来た?来た?来た?」
「いやさっきも何回か虹色になってけど結局来なかったしまだ分から……」
私が言葉を言い終わらないうちに、友人のスマホ画面から男性の良い声がした。
『少し恥ずかしいけど、君の為ならたまには着ても良いかな』
ボイスが終わったと同時に、友人のスマホいっぱいに白スーツのイケメンが現れた。
「ぎゃーーーーーーー嘘嘘嘘!?来た来た来た来た!!」
「まさか来るとは思わなかった……」
引いた私ですらも驚きを隠せない。確か確率は3パーセントあるかないかだよね。ほんとありがとう!と友人が半分咽び泣きながら私に抱きつく。
「持つべきものは無欲の友だわ」
「そんなたまたまでしょ」
「その調子でもう一回……」
「流石に二回目は来ないでしょ」
友人の許可が降りたので、再度画面をタップしたらまさかの二枚目が出て、友人が泡を吹いて倒れかけた。改めて確率って怖いなって思う。
【奇跡をもう一度】