Fawn

Open App
11/21/2022, 7:47:31 AM

どこかにあるのだと思って
色んな所へ行って探し回っていた。
とても長い間。

それはきっと宝石のように煌びやかに違いない。

それはきっと一生のうちにお目にかかれるか分からない
希少な物に違いない。

それはきっと誰もが羨むような素晴らしい物に違いない。

あの人が持っているから。
みんなが良いと言っているから。
そんな噂を聞きつけては手に入れてみるものの
本当にこれだろうかと不安になる。

そんな事を繰り返したある日。
それはふわっと浮かび上がった。

あぁ、ここにあったのか。
宝石でもなく、希少な物でもなかった。
他人が見れば何でもないだろう。

それは心の中にしまい込まれていた本当の私。
好きを好きと言えなくなっていた私。
誰かの価値観に取り込まれて見失っていた私。
私は私を取り戻した。

恐れる事など何もない。
私はふぅっと息を吐き、前に一歩踏み出した。


-宝物-

11/20/2022, 8:35:44 AM

ゆらゆら揺れる炎。

今日も一日お疲れ様、なんて。

ぼんやりと炎を見つめていると
気のせいかな?
中に何かが見える。

疲れた目をこすってもう一度よく見ると
そこには私がいた。

違う場所。
違う仕事。
違う生き方。

そうか。
あの時選ばなかった選択肢の私だ。

なんだか充実してそう。
楽しそうだな。

でもね。

今の選択を後悔はしてないよ。
壁にぶつかって上手くいかない時もあるけど。
それでも間違ってなかったと思うよ。

それは向こうの私も一緒よね。
だって私だもの。

お互い自分の道を迷わず進もうね。

私は向こうの私にエールを送って
そっと炎を消した。


-キャンドル-

11/19/2022, 9:45:15 AM

参ったな、こりゃ。
何から手を付ければいいのか。

断捨離、断捨離と呟いてみるけれど
あまりにも多すぎるし
重すぎるのだ、僕には。

もし、綺麗に全部片付いたら
僕はどうなってしまうのだろう。

今更ながら驚いている。
僕の心の中の君が占める割合の大きさに。

僕は空っぽになってしまうかもしれないな。

君は少しでも持って行ってくれたのかな。
それとも全部置いて行ったのかな。

そんな事を思う内はまだ
片付けられそうもないな。


-たくさんの想い出-

11/17/2022, 8:59:53 AM

夕方。

空気がそのままオレンジ色になったみたい。

広い田んぼの真ん中の道。
学校からの帰り道。

何がそんなに面白かったのか
今はもう思い出せないけど
お腹が痛くなるくらい
二人でよく笑ったね。

クラスが違っても
部活が違っても
委員会で遅くなっても
一緒に帰るのが当たり前だった。

あれからもうずいぶんと時が経ち、
今はお互いどこで何をしているかも知らない。

でもね、分かる気がする。
きっとどっしり構えた優しいお母さん。
何かとみんなの世話を焼くあなただったから。

もうずっと会えなくてもいいよ。
ただ、幸せでいてね。


-はなればなれ-

11/16/2022, 9:32:30 AM

今日は満月か。
外に出て気が付いた。

仕事で煮詰まった時は散歩に限る。
コンビニでコーヒーでも買って、近所の公園で一服しよう。

昼間は子供たちやお年寄りで賑やかな公園も
夜は誰も来なくて静かだ。
そこだけ切り取られたみたいにしんとしている。

だが、珍しく先客がいた。

少年だろうか?
透き通るような白い肌に銀色の髪。
アニメに疎い俺でも、二次元から飛び出したとはこの事かと思うほどに美しい。

少年はこちらに気付くと柔らかく微笑んだ。
「あなたを待っていました。」
きょとんとする俺を可笑しそうに見る。

「分からなくて当然ですよ。でも、これで思い出すかな?」
少年が指で宙に丸を描く。
すると目の前が光に溢れて吸い込まれた。

俺は満月の夜に歩いている。
今晩は冷えるな。
足早に家に戻ると、戸口の前に小さな塊が落ちている。

近づいてみると弱々しくみぃと鳴く。
その声ももう出す力はないのだろう。
俺はせめて最後ぐらい穏やかに過ごせるようにと
両手で抱えて温めてやった。

手の中のそいつはまた一声みぃと鳴くと
日向で眠るように息を引き取った。

そして、また光に包まれた。
気が付くと公園に戻っていた。
少年がこちらを見ている。

何もかも思い出した。

「僕、あれからずっとあなたにお礼が言いたくて。
何度も生まれ変わってあなたのそばにいました。」

少年は寂しそうに微笑んだ。
「でも、もうこれが最後なんです。
記憶を保ったまま生まれ変わると魂をすり減らすから。」

少年が少しずつ光に霞んでいく。
「最後にちゃんとお別れができて良かった。
僕、とても幸せです。ありがとうございました。」

公園に一人取り残された俺は
ベンチに置かれたコーヒーを見つめたまま呟いた。

今度は俺が会いに行くよ。


-子猫-

Next