シャボン玉が飛んでいく。
子どもの頃以来だ。
空が透けて青く見える。
時々虹色が見えて、
消えるまで見とれてしまう。
ある時、シャボン玉の歌は
子を亡くした親の悲しい歌だと知った。
それ以来、シャボン玉そのものが
悲しいものに思えて触れずにいた。
小さな球体の中に
どれだけの悲しみが詰まっていたのだろう。
どれだけの愛が詰まっていたのだろう。
どれだけの未来が詰まっていたのだろう。
ふぅっと吹いたシャボン玉。
ほとんどが壊れてしまったのに、
一つだけふわふわと登っていく。
壊れないでと願いながら、
見失うまで見つめていた。
-高く高く-
風が吹く。
緑一面の原っぱが波打つ。
雨。
丸くなった雨粒が葉の上で跳ねている。
生まれたばかりの妖精のよう。
滑り台をスーッと降りるように
葉っぱをつたって地面に落ちる。
暖かい光。
地面に落ちた雨粒から小さく芽吹く。
光を浴びた小さな芽はどんどん伸びて
赤い綺麗な花が咲いた。
緑の中の赤い花。
守るように、でも覆いかぶさってしまわないように
原っぱは今日も風に吹かれている。
-子供のように-
今日終わった後、時間ある?
話したい事があるの。
やけに神妙な面持ちで彼女は言った。
だいたい何を言われるかは想像がつく。
めんどくさいなぁ。
内心思っている事は顔に出さず
予定があると適当に嘘をついて断った。
どうして人は所有したがり、されたがるのだろう。
自分の感情すらままならないのに。
愛だの恋だの言って相手の機嫌を伺って、
一人では感じる事もない感情にわざわざ苛まれる。
校舎が離れていく。
ちょっとした危機から逃れてほっとする。
今頃オレンジ色になった教室で
残された彼女の胸の内を想像する。
めんどくさいなぁ。
-放課後-
23時。
青暗さが部屋を支配する。
窓の外から入り込む月は
少し頼りなく、
そっと私に寄り添う。
太陽がなければ月は輝けない。
ずっとあなたを照らしていたかった。
疲れた時は温かく包み込む光でいたかった。
守られていたのは太陽だったのかもしれない。
月はいつも太陽を見つめている。
-カーテン-
水色の青。
透明なガラス。
水に、色なんてない。
私は何を見ていたんだろう。
僕は何を知っていたんだろう。
あなたの。
きみの。
立ち止まる。
歩き出す。
離れてく。
-涙の理由-