Seaside cafe with cloudy sky

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9/22/2024, 10:30:20 AM

【声が聞こえる】

◀◀【大事/おおごとにしたい】からの続きです◀◀

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クラーラの店のお隣に移動するだけだったので、次なる目的地にはたちまちのうちに到着した。イダ・スティール・プロダクツ ―― エルンストが勤める企業であり、北の本国に拠点を置く、バルマー・テクノロジーと号する産業用シール製品を主として扱う大会社に連なる子会社のひとつの生産会社、製造請負工場である。今までデータでだけその名に関わってきたアランには、今回の現場訪問という滅多にない機会に至ってほのかな感動が湧き、好奇心を大いにくすぐられていた。車で素通りしたときから気になっていたが、その工場はまず見た目がデザイン性のある洒落たカフェのような外観なのである。ダークブラウンのリブウォールにところどころ木材パネルがあしらわれ、大きく大胆に配されたエントランスや窓のガラスは建屋全体の良いアクセントとなっていた。これは内部も相当凝っているのだろうなと期待しつつエルンストに案内されて中へ通されると思ったとおりであった。シックな色調に統一された現代的モダンテイスト・インダストリアル風であり、屋内全体が吹き抜け、ぶち抜きで焼付塗装された鉄材と渋めの木材を多用した内装、インテリア、そこかしこにあるグリーン、そして広い窓による自然光と開放感は快適なリラックス空間を演出していた。ブラボー、僕のオフィスより素晴らしいじゃないか!案内の最中で幾度も足を止め見入ってしまうアランだった。
「僕の仕事場、気に入って下さったみたいですね、アラン」
二階事務所スペースに入ったところでまた立ち止まり、大窓から見える川辺の景色に見惚れているアランの無心な様子にエルンストも案内の歩みを止め、和んだ笑みでそばに寄り話しかけた。ここは大窓向きにデスクが設置されていて、入口に立つアランとエルンストから見ると社員はみな背を向けた格好で、二人には気付かずに仕事に勤しんでいた。が、背後から先ほどのエルンストの声が聞こえると社員たちは驚いて振り向き、声のぬしを見つけるや歓声を上げて席を離れ、二人を取り囲み一斉に話しかけてきた。
「エル、おかえり!大変だったな!」
「よく一人で乗り切った、ご苦労さん!」
「さっき連絡があったよ、チーフの意識が戻ったって!」
「ね、この人?助けてくれた人って?」
「え、やだ素敵!!」
「ホントだ!だれ、ねえ誰、エル?」
やはりここでも女性の観察眼は優秀で、概して女性社員が多く、たちまちアランにむらがる数が増えていっそう賑やかなおしゃべりとなった。少数男性社員陣はぽつねんと囲みの外で呆気にとられて眺めるばかり。アランのそばに居たせいで巻き添えに遭い、一緒に包囲されたエルンストは収拾をつけるために声を上げて注目を引かせた。
「ああ、みんな静かに!我が社の大恩人なんだから行儀良く頼むよ。彼はアラン・ジュノーさん。偶然通り掛かったところを助けてもらって、チーフを病院まで運んで下さったんだ。騎士道精神あふれる彼に、まずは感謝の拍手を!」
エルンストが高らかに手を打ち鳴らすとすぐにわっと大きな拍手喝采が沸き起こった。思いもよらぬ盛大な歓迎ぶり、全員の眩しいほどの陽気で天真爛漫なリスペクトの笑顔を向けられてアランは気恥ずかしさを覚え、片手を首に当て気後れ気味に笑って会釈するだけの控えめなお返しでその場をしのいだ。病院でエルンストに指摘された、エリート然としていない「素の状態」の時に、こういうおおやけでの華々しい席は苦手なんだけどなあ……アランは助けを求めてエルンストに視線を合わせ、困ったように肩をすくめてみせた。すると彼は意外な表情を浮かべたものの、仕草で告げられたアランの意を重んじて拍手を止め、ふたたび声を上げてみなの注意を引いてくれた。
「拍手をありがとう。実はさ、社長にもこの大恩人へ感謝とご挨拶をして貰うために、彼、ジュノーさんに無理言ってわざわざここまで寄って頂いたんだ。いま社長室へ向かっている途中だから、あまり他では長居できなくて。だから悪いけれど僕たちこれで失礼させてもらうよ。それじゃあね、みんな。仕事の邪魔してごめんよ」
半分でまかせのアドリブを上手く織り交ぜて、穏便にいとまごいをするエルンストにアランはまたもや感心する。シャイで誠実で純朴で、冗談や駆け引きが苦手そうな印象が初めにあったが、ときに見せる当意即妙に堂々と振る舞う如才ない彼にずいぶんと一目を置くようになってきた。 ―― 一緒に仕事できたら面白いかも ―― そんなことをふと考えたりして。
「あ、ちょっと待った、エル」
事務所員一同の落胆がさざめき広がる中、それ退散!と笑って手を振り踵を返しかけたエルンストとアランに社員の一人が声を掛けた。
「たしか社長はいま部屋には居ないぞ。多分現場で作業してるはずだ」

▶▶またどこかのお題へ続く予定です▶▶

9/21/2024, 1:10:25 PM

【秋恋】

coming soon !

9/20/2024, 10:15:23 AM

【大事/おおごとにしたい】

◀◀【カレンダー】からの続きです◀◀

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店の外に出るとまだ空に日はあるものの、薄暗い影が地上に滲みはじめて遠くの木々が影絵のように寂しく見えた。空を見上げれば川沿いの場所ゆえによく見渡せ、美しく暮れていく雄大なさまに見惚れながら、アランはエルンストが駐めてくれた愛車まで歩いて行った。片側のフロントドアにもたれ、空を仰ぎ見つつ先ほど届いたメールの送信者へ電話を掛ける。呼び出しコールが鳴ったと同時に相手と繋がった。待ちかねていたらしい、耳が拾った第一声は大きな安堵の息を吐く音だった。
「ヘルマンくん大丈夫かい?呼吸するのを忘れてたのかな?」
アランのとぼけたセリフに受話口のスピーカーから電話の相手、ヘルマンの力無い笑い声が響く。それから彼は休暇中のアランに連絡したことを済まなそうに詫びた後、こうなった簡単な経緯を説明してくれた。
「……というわけでメールの通りの状況なんです。とにかくあなたと連絡つけろの一点張り、おまけに解雇まで振りかざしての、いつになく虫の居所が悪いようです。どうあしらえば良いものか、一度あなたのご意向を伺った上でご指示を仰げたらと……」
聞きながらやれやれと小さくため息をつき、今までアランの盾になってくれていたヘルマンをねぎらった。
「ありがとうヘルマンくん。ずいぶんと僕に気を遣って、さっきまで連絡を入れないでくれたんだね。それにしてもこんな接待メインの打ち合わせに、どうして毎回僕を引きずり込もうとするんだか。もう相手にしなくていいよ、代理人も必要ない。ひとまず僕が今から直々に彼のお望みの資料およびプレゼン内容、手順まで網羅したデータを作成してメールで取締役に送っておくから。メッセージに、解雇の件、承りました。 喜んでお受けいたします ―― って一言を添えてね」
そう伝えているときエルンストが店を出てこちらへやって来るのが見えた。驚いた顔をしている。聞こえてしまったのかな?本社のヘルマンと話しているのは北の言葉でエルンストと話しているのは南の言葉。異なる言語だが、この地方ではバイリンガル、トリリンガルなんてザラだ。何を言ったのか意味を理解できたのだろう。それに彼の名からして北の語感だし。まあ聞かれて困ることでもない。そうだ、それにエルンストにはこのことでお願いしなければならないことが生じた、傍へ来るよう手招きで呼び寄せる。困惑しながらもエルンストは少し距離をおいてアランの隣へ、同じように軽く車体にもたれて立った。会話が聞こえても大丈夫なのかと訴える視線を向けてくる。むしろ聞いていてくれ、その方が話が早いとそんな意味を込めたウインクをエルンストに返し、さらにはスピーカーモードにまで切り替えてしまうと呻くようなヘルマンの声が返ってきた。
「……そのジョークはさすがに不味いですよ、ジュノーさん。あの人のことですから、きっとおおごとにして、最悪本当に解雇させられてしまいかねないのでは……」
不安そうに言葉尻を曇らせての具申だったが、アランはさわやかに相好を崩してご機嫌に答えた。
「解雇、ああ解雇!実に甘美な響きだ、僕がなによりも求めていた言葉だよ。ここしばらく契約破棄のうまい口実について試行錯誤していたところにこれ幸い、渡りに船ってやつだね。この件は僕の方で大いにおおごとにしたいんだけれど、売られた喧嘩をストレートにやり返すのはスマートじゃないし、とりあえず今回はジョークで軽く扱っておいて、次に向こうがどんな反応を示してくるか様子をみるとしよう。そういうわけだ、ヘルマンくん。取締役はこっちで引き受ける。煩わせて済まなかったね」
「そんな、こちらこそ対処しきれず申し訳ないです……ではよろしくお願いしますジュノーさん。あの、くれぐれも、あまり取締役をからかい過ぎて追い詰めないように……」
語尾に添えられたヘルマンの心からのご忠言に、当の彼はうっすらと不敵な笑みを浮かべただけで取り合わず、「また近いうちに」とだけ言って電話を切ってしまった。
そしてほんのしばしの沈黙のあと、スマートフォンのケースを小気味よくパタンと閉じて、北の言葉のままアランが口を切った。
「 ―― さて、エルンスト。今までの話、理解していると思うけど」
エルンストはとくに気負わぬさまでうなづいて、同じく北の言葉でごく自然に返してきた。それは北の本国の、混じり気のない首都訛りであった。
「ええ、状況把握しました。大丈夫です、うちのパソコンをお貸しできますよ。ではすぐに移動しましょうか、また僕が運転します」
エクセレント。久々の手応えあるやり取りに思わずアランの笑顔がほころんだ。
「まったく頼り甲斐のある相棒だね。君の虜になってしまいそうだよ」
愛車のキーケースをポケットから取り出してエルンストに差し出したアランは、ふたたび南の言葉に戻してはや助手席に乗り込んだ。一方エルンストは、しれっと告げられたアランの罪な媚言にいたづらに心乱され、あやうくキーを受け取りそこねそうになり、あたふたと遅れて運転席に着いたのだった。

▶▶またどこかのお題へ続く予定です▶▶

9/19/2024, 10:21:20 AM

【時間よ止まれ】

coming soon !

9/18/2024, 10:30:00 AM

【夜景】

coming soon !

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