伝えたい
正義のヒーローに伝えたい
私はここで困ってる。助けて欲しい。
そんな他人任せな人生だから
「困ってる」から抜け出せない
この場所で
初デートは水族館
記念日はお気に入りのレストラン
プロポーズは遊園地
あなたと過ごした大事な場所は沢山あるわ。でもね。
私、明日死ぬってなったら絶対この場所で過ごしたい。
そう言って満面の笑顔を見せてくれた結は、お腹の子を愛おしく眺めていた結は、「明日死ぬなら」なんて冗談を言っていた結は、大地震の被害で生き埋めにされ、死んだ。
突然のことすぎて感情が追いつかなかった。悲しい、辛いよりも先に虚無感が襲ってきた。火葬が行われ、欠けた遺骨を集めて、母の時よりも軽い骨壷を持って、「この場所」にたどり着いた。俺と結が出会った公園。穴場で、友達も誰も知らなかった。それでも俺と結にとってかけがえのない場所……だったところ。もう今は周囲の建物に潰されて、跡形もない。警察だか自衛隊だかに「危ないですよ」と言われたって振り切ってきた。途端、急激に悲しみの波が押し寄せて、俺は瓦礫の上でしゃがみ込んだ。もう27になるのに、大声を上げてみっともなく泣いた。結も、お腹の子も、皮肉にも「この場所で」電柱に押しつぶされた。
誰もがみんな
人間は、誰もがみんな感情を持っているらしい。
大きさや柔らかさ、形なんかは違くても、絶対絶対持ってるんだってさ。それが人間たる所以だとも聞く。
俺、『晃』の悩みは感情の起伏が乏しいこと。今まで何度もすれ違いを起こしては人を傷つけてきた。ふと、他人の意見が欲しくて、10年来の仲である『陽』にこんなことを問うてみた。
「なぁ、俺に感情があると思う?」
「…あると思うけど。」
訝しげに俺に視線を向けながら普段となんら変わらぬ調子で答えた陽。
「みんな晃は無感情だって言うけど、私はそう思わないよ。」
「なんで?」
なぜそうも言い切れるのか。俺が聞くと、陽は無表情で続ける。
「だって晃、私が拓海とか健人とかと飲んでたら絶対乗り込んでくるじゃん。無意識?それ、嫉妬っていう感情だよ。」
俺は咄嗟に顔を隠した。熱が集まって、発火したような気がしたから。
「それ、羞恥っていう感情。」
口角をクイッと上げて陽が顔に出した『愛』に、俺は感染させられて、胸がいっぱいになった。
花束
古典的だが、浪漫が在る。其れが花束。本数や花の種類、色等でも意味合いが変わる。祝福、追悼…目的も様々だ。
なぁ、人間。お前は花束を受け取ったら、喜ぶか?
…
なぁ、人間。俺がお前に花束を贈れば、有難うと言って、笑顔で受け取ってくれるか?
…
なぁ、人間。高かったんだ。受け取ってくれよ。
…
たった50年。お前と過ごした日々は特別だったよ。
…
死は不可逆なんてのは分かってる。でも、そんなの、俺は悪魔だから、諦めきれないよ。
なぁ、人間。俺が作った、バラとヒマワリの豪勢な花束を
頼むから貰ってくれ。
スマイル
笑顔が苦手。見るほうじゃなくて、作るほう。会話中とか、写真を撮る時とか、顔が引き攣ってしまうことがある。自然な笑顔はまだいいとして、作り笑顔が苦手すぎる。
「おはよ!」
満面の笑顔で挨拶してくる幼なじみに、返事をする。
「おはよ」
この男は俺が笑顔を作るのが苦手なのを知っているから、無理して作らなくて良くて気が楽だ。一緒にいて心地が良い。ずっと真顔でいたって、向こうは笑顔で話してくれる。
「ねぇ、なんでそんなに笑顔でいられんの?」
スマイル満載な幼なじみに、聞いてみた。
「だって、お前が笑顔だから。嬉しくて釣られて笑っちゃうよ。」
俺は思わず頬を触った。無意識のうちに、口角が少しだけ上がっている。…そうか、俺、こいつと喋んの結構楽しんでるのか。
「ずっと友達でいて」
「え、もちろん」
急なお願いに驚いた表情をしたけど、即答してくれた。
窓の外をちらりとみると、快晴の空がどこまでも広がっていて、また、思わず笑みがこぼれた。