時計なんて
今夜は見ないからね
さー
飲もう飲もう飲もう
喋って喋って喋って
笑って笑って笑って
バカ騒ぎって言われたっていいよ
だってバカだもーん
バカにだっていろいろあるのさ
から騒ぎ
はしゃぎたい夜
アルコールという名のガソリンで
走る走る走る
朝まで耐久レースだ
ところによりクラッシュ
おーい大丈夫?
ところによりエンスト
おーい起きろよ
居眠り運転でレースは続く
カラスの声がチェッカーフラッグだ
夜明けなんて
そんなにカッコいいもんじゃない
グダグダの体にジワジワのしかかる
朝陽
秋晴れの
さびしい風が
所在を知らせる
金木犀の花
どんなに離れていても
君を思うよ
なんて
安ーーーいラブソングみたいだから
絶対言わないでおこうと思って
言わなかったんだけど
その安ーーーいラブソングを
なぞるかのように生きちゃってる自分が
甚だ不本意
あーあ
改札前の壁を指さして、彼女が立ち止まった。
何かと思って見てみると、そこに貼られていたのは鉄道会社の巨大ポスターだった。
人気の若手俳優と若手女優がCMをやっているやつだ。
CMは2人が遠距離恋愛中のカップルという設定で、遠距離恋愛につきものの紆余曲折を乗り越えて絆を深めるというストーリー仕立てになっていた。
人気俳優の出演に加え、人気バンドの音楽を使い、人気映画監督が監督したCMだったので、当然のように人気CMになった。
テーマ曲が頭にこびりつくくらい、やたらテレビでCMが流れていた。
ポスターには別々の駅のホームで佇む俳優と女優が並んでいる。
2人の間には、“「こっちに恋」「愛にきて」”いうコピー。
「このCM好きなんだけど、このコピーは駄洒落みたいでどうかと思う」
彼女はポスターを見つめながら言った。
「でも多分、有名なコピーライターが書いてるんじゃない?」
僕が笑いながら言うと、ええーと彼女は不服そうに声を上げて笑った。
「だって恥ずかしくなあい? “こっちに恋”“愛にきて”って」
そう言って笑っている彼女に、渋いフリをして一段低い声で「こっちに恋」と言うと、体をよじって大笑いした。
楽しそうに笑い転げている彼女を見ながら、
「でもあのCMと同じ状況になるんだよなぁ」
と呟くと、彼女は急に真顔になって小さく「そだね」と言った。
2年間の期間限定ではあるが、僕が転勤になり、住み慣れた土地を離れることになる。
当たり前のように僕らは遠距離恋愛を選んだが、不安がないわけではない。
さびしげに俯いている彼女に、「連休なんかは必ず帰ってくるから」と声をかけると、涙目の顔を上げて笑って、
「愛にきて!」
と小さい声で言った。
「スカイツリー行きたいって言ってなかったっけ、東京にも来なよ、一緒に行こうよ」
なだめるように付け加えて、再度低いトーンで「こっちに恋!」と言うと、彼女はまた楽しそうに大笑いした。
駄洒落とけなされたコピーだったが、実は気に入ってしまったのか、彼女は妙なイラストを描いてその自作スタンプまで作り、遠距離恋愛中の僕らの間で大変重宝されることになった。
最近すっかり出番は減ったものの、そのスタンプを見るたびに、あの改札前でのくだらないやりとりを思い出し、今でも少し笑ってしまうのだ。
君は今
どこにいるのかな
何してるのかな
元気でいるのかな
笑ってるのかな
泣いてるのかな
多分もう今生で
会うことはないんだろうな
あんなにぴったり重なっていた二人の線は
これからも
まるっきり知らない人どうしのように
遠く離れた平行線で進んでいく
ぐるぐる巡る輪廻の中で
僕たちはどんな約束をしていたんだろう
何回死んでも
君の笑顔は覚えてられそうだから
来世で君を見つけたら
また声をかけるよ