歌が聞こえる
いつもより向かうのが遅くなった朝
少し早歩きでいつもの公園に向かう
見慣れたポストを目印に道を曲がり
公園に着いた
あの子は 目を閉じて気持ちよさそうに歌っていた
歌を聞き終え、パチパチと拍手をする
あの子がこちらを向き
少し照れくさそうにはにかんだ
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あれから10年が経った
僕は 久しぶりに生まれた街に訪れた
昔の癖で、公園へと足を進める
あの子はもう歌っていないだろう
そう思ったけれど、それでも足を進める
少し錆びているポストまで来た時
歌が 聞こえた
【歌】
朝
本気で急いでいる時に限って
財布やら携帯やらが見つからない…
どこ?
どこにあるの!!???
【どこ?】
「大人になったら、僕たち結婚しようね!」
あの時のまるで太陽のような笑顔の君を
今でも鮮明に覚えている
手を繋いでピクニックをした青空の日も
2人で家中を探検して回った雨の日も
一緒に泥まみれになって遊んだ虹の日も
思い出の君はいつも笑顔で、
……子供のまま
私を庇って車に轢かれた君の顔だけは
どう頑張っても思い出せない…
私だけが、大人になってしまった
【叶わぬ夢】
青の宝石は嘆いている
暗い海の底で嘆いている
僕はこの世界を何も知らない
優しく温かい太陽も
どこまでも続く草原も
美しく色鮮やかな花畑も
時々来る魚が教えてくれるだけで見たことすらない
青の宝石は嘆いている
いつか海の底の美しさを知るその日まで
【海の底】
あの子は美しい
雪のようにサラサラな髪も
透き通るように真っ白な肌も
天使のように優しげな声も
あの子を構成する 全てが美しい
なにより 一番美しいのはあの子の目だ
色鮮やかな紫水晶の瞳に
キラキラと星が瞬いている
しっかりと前を見据えた
強く美しい目が曇らぬよう
綺麗なものだけを見ていて欲しい
私のような清らかさの欠片もないやつは
あの子の視界に映ってはいけない
だけど ごめんね
私は卑怯だから もう少しその目を見ていたい
穏やかな笑顔で汚い私を隠すから
美しい君のそばに居させて
【美しい】