『手を取り合う』なんて
そんな美しい行為
僕には似合わない
でも
少しでもこの手が清らかであってほしい
そう願ってしまうのは
いつか誰かの手をとりたいと
どこかで願っている証拠なのかもしれない
何か物事を成し遂げた時には
『やりきった』
という優越感と
『僕なんかで良かったのだろうか』
という劣等感が同時につきまとう
『優越感』と『劣等感』は
僕の中では表裏一体だ
ザク…ザク…
ギシ…ギシ…
いつもの灰色の景色が嘘のように白い日。
寒い。寒すぎる。
人が公園を歩いていい時間じゃない。
そんな文句と共に白い息を吐く。
俺はすっかり日が落ちた真冬の公園を歩いていた。
『すごい…あんな小さな粒がこんなになるのか…』
横で目を輝かせているのは
雪のように白く、透き通った髪をした美青年。
『ああ…それは良かったよ…。』
俺は半分ヤケクソでそう呟く。
遡ること10分前。
仕事から帰ってくると珍しく興奮してるこいつが窓に張り付いてた。
『さっきからしきりに白い粒が降っている…この寒さで雨が凍ってしまったのか?いや、違うな。これはもっとー』
真剣な面持ちでぶつぶつと『雪』に関しての考察を呟くこいつの姿は傑作だった。
だがまぁそれも仕方ない。
こいつは雪を初めて見たのだから。
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俺は普段消防士として人命救助の仕事をしている。
半年程前、山から煙が上がっているという通報を受けた俺は急いで現場に急行した。
燃えていたのは何かの研究施設のような建物。
使われていた痕跡はあるのに、人気はまったく無いのが不気味だったのを覚えている。
こいつはその建物の一室に拘束されていた。
白く長い髪が鎖に絡まって、それを外そうと暴れて余計に絡まって。
もう大惨事だった。
なんとか鎖を外して現場から離れることに成功した後も、ずっと暴れていて。
しばらくは会話もできない状態が続き。
落ち着いて会話ができるようになってからも身元に関する情報は一切持っていなかった。
そこで、独身、独り暮らしの俺がこいつを引き取ることになったのだ。
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恐らくこいつは、俺に会うまでずっと、外の世界を知らなかったのだろう。
だから今もこうして、なんてことない雪にはしゃいでいる。
でもまあ、肉体労働で疲れた体に鞭を打って外に出たんだ。
これくらい楽しんでもらわないと割に合わないがな。
僕のLINE友達は
お世辞にも多いとは言えない
ほとんどは数年以上動かしていないので
一件のLINEに一喜一憂することも少ない
それでも
今トークにある数少ない友達との
ほどよい距離感に
なんとも言えない心地よさを感じているので
割とお腹いっぱいだ
白いもやの世界
とても優しい世界に
僕はいた
ふんわりなめらかな布に包まれて
誰かに頭を撫でてもらっている
その人は手以外姿が見えなかった
街中でそんな格好をした人に触れられたら
間違いなく恐怖を覚えるだろう
だがこの人には
なんの恐怖も感じなかったし
むしろ心地よさまで感じていた
ふいに、まどろんでいた意識が
ふ、と浮上する
数秒ほどぼーっとして
ここは自分の部屋で
先ほどまでの光景が夢だと気づいた
僕のことを優しく撫でてくれたあの人は
誰だったのだろう