綺麗だった。
まるで、雨上がりの日葉っぱの上に溜まった雫が滴り落ちるかのように静かに動くその軽い身体。 周囲の熱の影響ではらはらとゆっくり体を揺らすその様子はまるでプロのバレリーナの踊りのような美しさを身にまとっている。それを見た私は意図せずしてため息を漏らし少しの間一人感傷に浸っていた。
仕事帰りのルーティン。店に入りその日限定のメニューを頼む。今日のメニューはたこ焼き。俺の大好きな鰹節がたっぷりのやつだ。
踊るように
私は『きらめき』という言葉が好きだ。
海が陽の光に反射してきらめいている。
真っ暗な夜を背景に街の灯りがきらめいている。
小さい少年の未来への希望に満ち溢れたきらめく瞳。
自分の将来に向かって努力している少女のきらめく夢。
『きらめき』という言葉はそれだけで自然の美しさやロマンチックでノスタルジーなじょうけい、人間の様々な感情まで的確に表現してくれる。この言葉を聞くと世界というものは広くて、自分はその中のちっぽけな存在で、少しの虚しい気持ちを抱きながらも悩んでいたことが全部吹き飛んでしまうような気がしてとても気持ちが落ち着くんだ。
きらめき
日常に楽しみをみつけよう
日常にいい所を探し出そう
道端に綺麗なお花が咲いていた
今日は突き抜けるような晴天だった
心地よい風が吹いた
日常に喜びをみつけよう
日常に非日常を探し出そう
穏やかな雨の匂いがした
美味しそうな料理屋を見つけた
いつもより字が綺麗にかけた
どんな些細なことでもいい
少しの希望が幸せにつながるから
些細なことでも
俺には夢がある。 自信がなくてまだ誰にも言えていないけど声優になりたい。
きっかけはアニメやゲームといったものではなく、高校の朝礼のときに放送部が放送コンテストに出場した時の演目を演じていたことだった。その中に出てくるとあるセリフに胸を打たれ、声だけで人を感動させることができる声優という職業にどうしようもなく惹かれてしまった。 、、、まぁ、演目もそのセリフもとっくに忘れてしまったのだけれど。
とにかく!あの演技で俺の人生が変わったことは間違いない。良い方向にか悪い方向にかは分からないけど。
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「先輩!ちょっと聞いてくださいよ。今まで1ミリも勉強してこなかった息子が医者になりたいとか言い出して、それでなんでか聞いてみたら最近見たアニメの主人公が医者だったからなんて言うんですよ!!」
「確かにこれまで特にしたいことのなかった息子が立派な仕事に興味を持ってくれたのは嬉しいけど、人より勉強も出来ないし、何より動機が動機だから辛いことがあった時に続けて行けるのか不安で。」
仕事の休憩時間中、そんな話し声が聞こえてきた。
(やっぱり、高校生でもアニメという非現実世界きっかけの夢は微妙な反応になってしまうのか。)
そりゃそうだろとも思う。ましてや自分は高校生でもなく二十歳も後半を差し掛かったおじさんな訳で、そんな夢に対しても勉強に対しても運動に対しても中途半端な自分が今から声優になるなんて笑われてしまうんだろう。
「んー、まぁたしかに心配かもしれないけど本気で息子君が目指しているなら応援してみるべきじゃない?」
「いい言葉教えてあげる。私の妹が高校のときに放送コンテストに出た時に言ったセリフなんだけど、、、」
『夢を見つけたときその夢に対して真摯に向き合えた人間だけが幸せになれる。きっかけなんてなんだっていいんだ。それを私は「心の灯をともす」って呼んでるんだ』
「へぇー、深いセリフですね」
「でしょ?私もこの台本を当時の放送部のメンバーで考えたって聞いた時は度肝抜かれたね。」
酷く耳馴染みのいいその言葉に俺は目を見開いた。聞き覚えのあるその言葉はまさに俺の人生を変えた言葉だったからだ。
(そうだ、思い出した。当時、進路に悩んでいた俺はあの言葉を聞いて自分の未来に希望を見い出せたんだ。)
あの時は周りの人達に馬鹿にされると思って結局諦めたんだっけ、、
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家に帰って俺は職場でセリフについて話していた放送部員の姉だという人の苗字を検索してみた。少し珍しい苗字だったからヒットした。
ヒットした名前は夕星 鈴。放送部の部長だった人の名前だった。
彼女は現在モデルをやっているようだった。当時は自分の姿を人に見せるようなタイプではなかったので相当努力をしてきたんだろう。
その姿を見て俺も夢に対して前向きに考えてみようと思えたんだ。
心の灯火