涼やかな音色が縁側から聞こえてきた。
目が眩むような明るさから逃れ、
暑い季節を体感する。
山の向こうで海のような青とコントラストを描くように、白い大きな綿菓子が浮かんでいた。
僅かな眠気と重力に従って、
背中を畳にくっつけて寝返りを打つ。
そこには深く息を立てる君がいる。
胸の上下がいつもより長くてはっきりしている。
僕も真似をしていつもより大きく息を吸う。
途端にいぐさの匂いが鼻腔をくすぐる。
少しずつ呼吸を緩めると、
身体中が僕の支配下から逃げ出し始める。
指の先が言うことを効かなくなるのを感じながら、
断片的に君のことを考えた。
それでも少しづつ意識は薄れていく。
どんどんまぶたが重くなり、
最後に君の顔がぼやけて消えた。
どうしてこの世界は、こんなにも美しいのだろう。
夜明け前の薄暗く照らされた君の寝顔、
潮の香りを浴びながら船旅を喜ぶ君の笑顔、
映画館でスクリーン照らされて濡れていた君の横顔。
どれも言葉にならないほど美しかった。
別に君が美人だからではない。
君を愛しているから、
「約束なんて今まで守った事ないだろ」
「今回は必ず返すから。約束するって!!」
「本当だな?じゃあ必ず返せよ」
「ありがとう!お兄ちゃん」
__このやり取りは先月のもの。
お金を借りては踏み倒す義理の妹のせいで、
電話を録音する癖がついた。
先月の初めに妹から、金の無心をする連絡があった。
ちょうど会社から臨時ボーナスが出たので、
いつもなら5回ほど連絡があるまで貸さないが、
(妹が本当に必要な時にしか貸したくない為だ)
あの電話のやり取りで、
あっさりボーナスから10万円を貸した。
この行為が全ての問題の始まりだと気付いたのは、
昨日の夜中である。
例えば貸したお金が帰ってこないだけなら、
初めての事でも無いので諦めがついた。
しかし、金を返さない妹のアパートの大家から
夜中に電話が来たことには流石に驚いた。
電話の内容は、
妹が俺を保証人にしていて、
5日前に家賃を踏み倒して逃げたから、
俺が代わりに払ってくれと言う内容だった。
保証人としては、
俺の承諾もサインもないため無効だが、
どうも問題はそれだけでは無いらしい。
大家の話によると妹とその彼氏には息子がいて、
その息子が7日ほど家から出てきてないそうだ。
息子が生きているか心配なので
確認して欲しいと連絡をくれたのだ。
その子供の年齢はなんと7歳程度。
学校には通って無いそうだ。
まだ若い妹に子供は居ないはずなので、
彼氏の連れ子だろうと当たりをつけた。
日陰を歩いていた。
休日なのに特に予定もなく、
ただ晴れてるからと大学と反対の方向に出てきた。
アパルトメントのある通りは日陰になりやすく、
家賃が安い為、僕のような学生が沢山住んでいる。
通りをぬけ、広い場所にでた。
酷く晴れた空と石畳のコントラストが目に染みる。
オープンテラスで昼間からビールを飲む人々の喧騒、
観光客の声、遠くの教会から鐘の音が聞こえる。
晴れているからかとても暑い。
行きつけのカフェーでアイスクリームでも食べるのがいちばん良い選択のような気がした。
わぁ!
なんだこれ!?
え、プレゼント?
私に?
ありがとう!!
わ〜超大事にするね!
お返しは期待しといてよ〜!