正直
もくもくと黒い煙が浮き立つ。
美しい国の面影は消えた。
だが、ここに掃除屋の少年が居る。
彼はどこか達観しているようだ。
でも、それでいても、自分の気持には正直だ。
彼はこの国をもう一度、美しい国にすることを誓った。
たとい何世代も続こうとも。
霧を払い、煙を払い、煤だらけになりながら闘う。
彼は、最も愚かな男。
でも、正直者。
梅雨
したり、したり、と嫌ぁな雨が降ってる。
窮屈な洞窟の中揺ら揺ら頭を揺り動かす。
鼻唄はいつの間にか、仲間たちとの合唱へ変わった。
閉塞的な洞窟の中は高揚した空気に包まれた。
湿気た空気が熱気で上書きされる。
楽しげな唄い声と拍を執る指の音。
寝覚めの悪いドラゴンも一緒だ。
洞窟の囚人たちはいつまでも。
梅雨はいつまでも。
雨は止まない。
終わりなき旅
暗い廊下にコツリ、コツリ、と足音が響く。
足音はゆっくりと。でも、歩みは止まらず。
背中に背負われている少女は未だ目を開けず。
息も乱さず、足音崩さず、ゆっくりと歩みを進めていく。
先は見えない。
終わりなどない。
終着点は、己の死のみ。
暗い廊下にコツリ、コツリ、と足音が響く。
これは、終わり無き旅路。
虚無を進む。
月に願いを
生まれて初めて見た月はきれいなまん丸お月さまでした。
濡れた体を拭かれているとき、カーテンがひらひらと翻ったんです。
私の記憶の中では月にはうさぎが住んでいるそうです。
流れ星にお願い事を込めると月に届いて、うさぎたちがそのお願い事を叶えるお手伝いをするんだそうです。
私はまだ接続が不安定なので音が聞こえませんでした。
だから私は一番最初にお願いしました。
コエがほしいです。
失われた時間
ふと気づいた瞬間。
突然足元が消えたような感覚がした。
瞬きもしないうちに戻ってくる景色と人たち。
何事もなかったかのようだった。
私は後ろを振り返った。
何か落としたような気がして。
何か忘れてきたような気がして。
数分前の出来事が、伽藍堂になっている。
空虚な思い出が喰われていく。
そこは失われた時間帯だ。