明日、もし晴れたら
この頃、ざあざあと降り止まぬ雨が鳴っている。
湿気た空気の中で布団に埋まる野郎を見た。
毎日のように呑んだくれて帰ってくる。
雨降りになると出られない私を置いていく。
帰りは態々濡れてくる。
女の匂いや服に付いた紅を誤魔化すために。
気付かないことはないのに。
それでも、追及する事が出來無いまま。
明日、もし晴れたら。
こっそりと後をつけていこう。
だから、一人でいたい
なぜだか最近ずっと誰かが横にいる
何かをするたび必ずと言っていいほど
誰かの足音が聞こえる
例えば、本を読んでいて次のページを捲るとき
例えば、日が沈みきった帰り道街灯の下を通るとき
例えば、誰かと一緒に食卓を囲むとき
挙げ出したらキリがないくらいに
後ろをついて周るような
振り返っても隣を見ても姿は見当たらない
布団の中にいるときだって
ずっと誰かが居る気がする
自分が世界から押し出されていくような感覚に陥る。
花咲いて
最近ずっと寝転がってばかりだ。
夏休みで学校がないから8月の最後まで
雨に降られたくないしね
ある日、いつもどおりのベッドの上
母が叩き起こしに来た
曰く、これから毎朝7時までには起きなさいと
曰く、窓際の花瓶に毎日水やりをしなさいと
曰く、曰く、曰く、と
幾らかの曰くを聞いていくうちに
母はなにかの花の蕾を貰ったらしい
何故かは一旦置いといて
蕾は緑色
きれいな花じゃないだろうと思った。
一日、二日、三日……
案外、早く咲いた
案外、ピンクっぽくてかわいい
ちょっとだけ嫉妬した
空を見上げて心に浮かんだこと
まだ夜が明ける前の薄紫
ほんのりと山の縁が白んでくる
縁側に座ってまだ薄ら寒い風を髪に受ける
案外、猫は早起なもので
畳の部屋から襖を抉じ開けながら出て来る
にあうと一鳴きして縁側から草履の上へ跳ぶ
ふと、猫の毛並みがキラリと輝る
顔を上げると何時の間にやら
すっかり水色になった空が見えた
よく目を凝らすと薄暗い雲が遠くに有る
今日は笠を持つように彼奴等に言っておこう
と心に留めた
終わりにしよう
「ね、別れよ」
ポツリと
テレビを見ながら、まるで独り言のように
「じぶんさ、結構、考えたんだよ」
もうすぐ終わりの近いバラエティ番組を聞きながら
隣りに座った其の人を盗み見る
「急、でもないんだよ」
じっと、まだ若い芸人が弄られている様を観ながら
「やっぱ、間違い、だったと思う、から」
声だけ聴けば、泣きそうで、可哀想だと思うぐらいに
声が震えている。
「別れよう、ほんの少し、時間が必要だ」
其の人の顔は有り得ない程に無表情で凍てついてて
感情なんて母親のお腹に忘れてきたかの様だった
「ね、もう、終わろう。」
こちらを、振り向く。
「終わりにしよう」