6/1/2023, 1:21:08 PM
「わぁ!あなたはだれ?」
しとしとと降る雨の中、アオイは立ち止まる。
青や紫の色鮮やかな紫陽花の花が、しゃがんだアオイを見下ろしていた。
「こっちに、おいで!」
「アオイ?誰と話しているの?」
「ママ!この子だよ、小さいの」
アオイが小さな指で指した先には、茶色く汚れた子犬が一匹。捨て犬だろうか?それとも、迷子だろうか?
「わんちゃーん」
アオイの呼びかけに、子犬は小さく返事をした。
「この子、ひとりぼっちなのかな??」
キョロキョロと周囲を見渡して見るが、他に子犬の家族らしき子や、捨てられた形跡も見当たらない。
「そうみたいだね…今日は夜から雷雨になるって言ってたよ。」
「らいう?」
「雨と雷がたくさん降るんだよ」
「この子、おうちはないの?カミナリ、こわいよ」
「そうだね…でも、家でも飼えないしなぁ…でも、見つけちゃったら放おってもおけないね…」
「ママ、一緒におうちへ帰ろうよ」
「…ひと晩だけなら、泊めてあげられるけど…その後はどうしよう」
頭の中で、近所の動物病院を必死で探した。そうこうしている内に、雨足は早くなる。
パタタ、パタタタ
薄紫の傘に当たる雨の音が大きくなった。
「猫が居るから家では飼えないけれど、連れて帰るからには、なんとか幸せにしてあげようね」
「うん!!」
雨に濡れ、土がこびりついて、柔らかいはずのその毛は硬くなっていた。手を取ったからには付いてくる、重い責任がずしりと腕で震えていた。
「アオイもだっこする」
「帰って洗ってあげてからね!…雨強くなってきたから、走るよ!もうすぐ家に着くからー!」
ピンクの恐竜かっぱを着たアオイは、雨の中を跳ねるように走る。小さな長靴で、水たまりの地面を蹴って。
梅雨はまだ、始まったばかり。