【脳裏】
朝からどんよりとした天気だったが、暗くて重たい雲からとうとう雪が降り出してしまった。あれよあれよと積もっていく雪は、あっという間に庭を真っ白に染めていく。
……雪は苦手だ。
ウツツは曇天を見上げながら小さくため息をついた。
ウツツが家族を殺されたの日もこんな風に雪が降っていた。
当たり前の日常に突如現れた非日常。真っ赤に染まった家、家族、まっくろなケモノ。もう5年も経つけれど、1日だって頭から離れたことはない。
「ウツツくん、何ボーッとしてんの」
竹箒を持ったまま、玄関先で立ち尽くしていたらしい。気がついたら目の前にはトワがいた。
あの時、家族と同じように殺されるはずだった自分を助けてくれた存在。ウツツの首にケモノの牙が突き立てられるその瞬間に、あらわれた、銀色の女神様だ。
刀を片手に、氷を纏いながら、ケモノと対峙するその姿は今も脳裏に焼き付いている。
「あー、悪ィ」
「雪かきは明日でいいから、ご飯にしよ。今日はカレーだよ」
「マジか、やったぜ!」
「その前にお風呂入る?このままじゃ風邪ひいちゃうよ」
ウツツの髪や肩に積もった雪をはらいながら、水色の瞳がこちらを見上げてくる。あの時はウツツの方が小さかったのに、いつの間にか追い越してしまった。
雪は苦手だ。それは変わらない。
けれど、少しだけ、マシになった。
トワの使役する氷の力は美しい。それはきっと、彼女の心の有り様なのだろう。それを近くで見てきたおかげなのか、雪を見ても震えなくなった。
彼女が与えてくれたぬくもりや未来のおかげで、ウツツはこうして笑っていられる。
「……そうだな、ありがと」
だからこそ、何があっても彼女を守ろう。ウツツの決意は揺るがない。
※※※
登場人物
ウツツ:小さい頃に怪物に家族を殺された少年。助けてくれたトワに引き取られる。現在はトワの護衛として一緒に過ごしている。
トワ:代々怪物と戦う家に生まれた女の子。訳あってウツツと二人暮らしをしている。氷の力を使う。ウツツより少しお姉さん。
意味を求めることこそ、何よりも意味がない。
意味は後からついてくる、結果論でしかない。
それって運命ってこと?なんて結論づけられたら、とっても素敵なことだと思う。