『大きな不変の小さな変化』
「あーあ、変わらんなぁ」
何気なく独り言ちった吐息が目の前を白くする。
連日の納会で、とうとう今日俺は酔い潰れた。もともと強い方ではない。しかし、毎年この時期だけは嫌でも飲むしかない。数日前から体調を万全にして臨んだが、どうやら5連チャンは身体も堪えるらしい。
あーあ、気持ち悪い。明日は二日酔いだな。年末、寝込むなんてもったいねぇ。
年末のやるべきことは山ほどある。今年こそは持ち越さないと思っていたが、明日は身体が言うことを聞かないだろう。
「具合はどうだい?」
水を買ってきた同僚が俺の背中をさすってくれた。
「あー、もう美味いもん全部出ちまったよ。今日の料理結構気に入ってたんだがな」
「年末に相応しく、胃の中もリセットってか?」
同僚は、ははっと小さく笑った。つられて俺も苦笑いする。
「酔いもきれいさっぱりにリセットしてくれれば良いんだけどよぉ」
「張り切り過ぎなんだよ。お前、弱いんだから自重しろよ。なあ、この後は帰れ。俺がみんなに言っとくから。なんなら送っててやるから」
「ありがとう。そうするよ。あー、帰りは自分で帰れる」
「そう言うなって、ほら帰るぞ」
同僚は肩に手を回し身体を持ち上げる。遠くから心配する声が聞こえてくる。彼はその集団に合図と帰る旨を送った。
「駐車場までもうちょっと我慢してくれ。吐きたかったらすぐ言えよ。スーツに吐かれちゃ困るからな」
「……変わんねぇよな」
「うん? なんか言ったか?」
「俺もお前も会社に入って毎年同じことの繰り返し」
「確かに、もう慣れたよ」
「今年こそはなんかあるっていつも思ってたんだがな。最近はめっきりだ」
「変化が欲しいのか?」
「変わるのは嫌いだ。毎年新しく導入されるシステムやコンピューターも経営方針も。慣れた頃には次のものが入ってくる。何時でも新人って感じだ」
俺はなんでこんなことを話しているのだろう。だが、口が止まらない。俺の意思とは別に俺の気持ちや気分をデタラメに吐き出していく。
だから、酒は嫌いだ。明日、自責の念に駆られる俺が容易に想像できる。
「ははっ、確かに。この話去年も聞いたっけな。毎年同じことを言いやがるロボットかよ」
「ロボットねぇ。ロボットなら楽かな。気持ちが無い分」
「さあね。気持ちが無い分、退屈ではあるだろうけど。で、どうなんだい? 結局、今年はお前の満足のいく結果だったのか?」
俺は今年を思い返す。成功したこと、失敗したこと、笑えたこと、苛立ったこと。
思い出して、感じることはやはり「何も変わってねえな」ということ。
「そうだな……差し引きゼロで、『悪くはなかった』というところかな」
彼は、またふっと笑う。
「そう言うと思ったよ」
『冬しのぶ』
一年の間に様々な休みがある。中でも冬休みは本当の休みだと私は思う。年末年始には、ほとんどのシステムが休止し、人もゆったりと過ごす。まるで、社会自体が冬眠をしているかのように。ある意味、動物的な本能的なままに生活をしている期間なのかもしれない。
……と私は毎年思う。どんな悩みも心配も不安もとりあえず置いといて、来春に小さな期待をして今日を眠る。