何でもないフリ
職場で腹の立つことがあった。
ぞんざいな扱いの物言いをされ
プチッと切れてしまった。
その場が一瞬で凍りついたが
素知らぬ顔で業務を続けた。
次の日も、まだ溶けていなかったが
気づかぬフリをして仕事をした。
なんと言いますか……
それでイイと思うなよってなこと。
ぞんざいな扱いに対しては
何でもないフリをできず
場が凍りついたことには
何でもないフリをした。
あるよね、そういうとき。
手を繋いで
いつまで手を繋いでくれるだろうか、いつまで甘えてくるだろうかと思っていた。17歳の今も甘えん坊真っ只中。
私の手より大きくなるだろうと思っていた。17歳の今もちっこくて可愛い。
疲れたから手を引っ張ってくれと、出先でも私に甘えて手を繋ぐ。
色恋事の経験がない娘が、「彼氏がほしい」と唐突に言った。
彼氏ができたら、私はお役御免となるだろう。寂しいような嬉しいような。
甘えん坊の娘ですが、よろしくお願いします。
部屋の片隅で
寝室の片隅に置かれたテーブルの上に、キツネのぬいぐるみが座っている。
つり上がった目に細長い口で、おとぎ話に登場しそうなちょっと強面のため、可愛いかは微妙。セーターにズボン、小洒落た帽子を被っている。
私が小さいときには既に実家のタンスの上に居り、長年じっと見下ろし続けていた。私が27歳で実家を離れるとき、なんとなくで一緒に連れて来たのだ。それまでキツネと遊んだことも可愛がっていたこともなかったのに。
なんとなく安心するのよね。そして今さら愛でて大事にしている。
キツネさんは居心地よく思ってくれているだろうか。
寝室の片隅で、じっと私を見守ってくれている。
逆さま
棒付きアイスの袋を、棒じゃない方から開けてしまった。
そしたら、袋ごと棒を握って食べたら、アイスが溶けて垂れてきても汚れないよ……だって。
両開きカーテンは、両端に分けて開けるものだと思っていた。
でも、両方ともを片端に寄せると、ベランダの開け締めでカーテンが邪魔にならないよ……だって。
固定観念を逆さまにすると、なんだか生きやすくなった。
悩み事は逆立ちしたら解決するって言うしね。
私、逆立ちできないや……
眠れないほど
夜中に目が覚めると、娘の
静かな笑い声が聞こえた。
いつものように、ケータイで
小説を読んでいるのだろう。
キッチンへお茶を飲みに行く足音。
トイレの水が流れる音。
夜明け前にようやく静まりかえった。
私もしばし深い眠りにつこう。