高校生の私は、
毎朝自転車に乗って
新聞配達をしている。
家族を養うためだ。
配達後、
シャワーを浴びる。
ひと息ついて、テレビをつけた。
「2歳児の描いた絵が4300万円の値がついた」
と、ニュース番組で特集されていた。
私の人生はなんなんだろうか。
オレは天才外科医、
山井ナオル18歳。
今年からアメリカの有名大学病院に
勤務することになった。
ワシントン空港を出て、
タクシーを待つ。
突然、赤いスポーツカーが
タクシーを待つ客の一団に
突っ込んで来た。
悲鳴と衝突音が交差する。
刹那
「ヤレヤレ、オレの出番か…
こんな状況はドラマだけにして
欲しいものだ」
と、内心グチる。
SNSでまた取り上げられて
チヤホヤされる姿が浮かぶ。
『運良く居合わせた
天才外科医が怪我人を救う』
なんてメディアは黙ってないだろう。
ヤレヤレだ。
オレは気づくと病室にいた。
重症患者はオレ以外いなかったらしい。
オレが意識を取り戻したのは
事故から今年でちょうど70年目だった。
処置が遅れてこうなったらしいことを
後で知った。
あの日、すぐ近くに医療従事者が一人でもいればこうはならなかった。
天才でなくても良いのでいてくれたら
オレは…
災害の多いJ国に生まれたので
一生懸命働いて
災害に強い家を建てようと決意した。
大地震が来ようとも、
大嵐が来ようとも、
大洪水が来ようとも、
びくともしない家ができた。
防災グッズ、保存食も多数そろえた。
予備の発電機を3つも取り付けた。
仕事もテレワークにしたので
家から一歩も出なくていい。
運動不足にならないように
トレーニングルームも作った。
孤独にならないようにSNSで
理解ある彼女も作った。
完璧だ。
20xx年8月8日午後8時頃。
都内の住宅から119番通報があり、
男女二人が都内の病院に救急搬送された。
原因は食中毒と見られる。
20xx年8月8日午後10時頃。
歴史的大災害がJ国を襲った。
神様が舞い降りて、こう言った。
私は聞き取れ無かったので、
「え?なんて言ったんですか?」
と答えた。
神様は言った。
しかし、
また聞き取れ無かった。
「いや…、6人同時に話すの
やめてもらえませんか?」
と私は訴えた。
神様のひとりが不満そうに言った。
「聖徳太子君は理解したのに…」
そこで目が覚めた。
あれから20年経ち、
私の設立した宗教法人も大きくなった。
「私は神の啓示を受けた」
と、教徒には今まで語ってきたのだが、
なんと言われたのか未だに分からない。
まあ、いいか。
誰かのためになるならば
「たったひとつの不幸で
人生すべてをあきらめた」
そんな私から
「たったひとつの幸福で
人生最高だと思える」
あなたになって欲しいと願う。
私の失敗が、
誰かの幸せになりますように。