9/28/2024, 10:56:50 AM
「別れ際に」
花束を渡したい。
最後の最後でわがままを。
あなたに会いたい。
最初で最後の別れ際に。
その腕で眠りたい。
最も偉大な愛情だから。
「あのね」
シュー、シュー、シュー……。
「ごめんね、ずっと言えなくて」
シュー、シュー……。
「だいすきだよ」
「……」
「だから帰ってきて」
シュー、シュー……シュー……。
玄関のドアを開けて、真っ暗なリビングだけが出迎えること。荷物を投げ出して泣きわめいても、あなたは駆けつけてくれないこと。
おはよう。いってらっしゃい。いってきます。ただいま。おかえり。いただきます。ごちそうさま。おやすみなさい。
それらの代わりに花束を。お別れなんて信じない。認めない。私のそばには、あなたがいないと許さない。
だからありったけの愛をひとつに束ねて、あなたに届けたいの、お母さん。
『彼女と先生』
9/27/2024, 8:01:41 AM
「秋」
『好きですか、それとも嫌いですか』
彼女に訊かれて答えられなかったことを今でも覚えている。リュックサックを背負い、夕日越しにわたしを見つめる目を、オレンジ色に染まったまつげを、頬にかかった数本の髪を。
九月二一日の、まだ暑い放課後だった。熱か暑さか、それ以外だったのかもしれない。妙にみずみずしい黒目に、わたしは何をすればよかったのだろうか。
そのまま彼女は後ろ向きに倒れた。支えることも間に合わなかった。
九月二十日の夕日は痛い。『明日です』と、囁かれる気がしてしまうから。
『彼女と先生』