時計の針がてっぺんで重なる前に
階段を駆け降りて
王子様には悪いけど
ガラスの靴は殴打の凶器、投擲の武器
右も左も思いきり粉々に
攻撃力は抜群で上手いこと逃げ出せた
お嫁様になるよりもあなたみたいに生きたいと
魔法使いに相談したら
ガラスの靴と運動靴まで貰ったの
お嬢さんの気が変わらなかったなら
森の入り口まで走っていらっしゃい
ガラスの靴は砕いて証拠隠滅を忘れずに
履き替えたこの靴で
夜明けまででも走れそう
魔法使いになりたいといった私に
にっこりと笑ってくれたあなたみたいに
私もいつか誰かを助けることができるかな
「夜空を駆ける」
いつも身につけてるキラキラはテラヘルツ。
これは人造石。
元はDVDやCDの記録媒体なのでレーザーで読み取るため光の反射率がえぐいのです。
工業用の純度から外れてしまったものの一部が、半貴石として使われるのだと思います。
カッティングにもよりますが、かなり鋭く光を弾きます。しかしこまめに表面を磨かないとすぐ曇ります。
出不精な自分が外に出る前のルーティーンになりちょうどいいです。
そしてなかなか人に言う機会がなくて、でも自慢なことを。
誕生日石がアレキサンドライト。
366日分の石や鉱物の中、すごい物が割り振られたな?
自慢だけど「お前が?」と思われるのでここだけに留めておく。
「輝き」
最近テレビでおぼえた、関係ありそうな話。
世界一大きい砂時計は日本にある。
一年計だそう。
閏年の分はどうなってるんだろう。
そして砂時計のくびれの部分の名前は
オリフィス。
砂時計、買ったのと貰ったのがありますが、どっちもしまい込んですぐには出せない。
買った方はカップラの蓋の重しにもなる3分計。
貰った方は、誕生日にもらったけど、くれた人にはもう会えない。
砂時計は砂が落ち切るムーブが、時が止まった感がありますね。
「時間よ止まれ」
耳にテンピュールくらいなじむのは
KAN
まるくてどっこにも引っかかる事なく脳に直で届く
ラジオの曲あけの喋り出す前、吸い込む息の音すら大好き
ただこれは自分ピンポイントで刺さってるものだとわかってる
マッキーなら声の凄さを共感してくれる人は多いかな
「LOVE LETTER」が一番聞いてて気持ちいい
声の張りとか伸びがすごいのに軽々と歌ってて
何より声が若い
つんくさんは声に独特な色気があって、歌い方と相まって素晴らしかった
大阪エレジーはずっとプレイリストに入ってる
一番最近iTunesで買った曲は不思議
あるアニメのエンディングだけど、なぜか毎回目が覚めるので波長が合う?と思って買った
イヤフォンかけて聞いたら、首筋とか肩から二の腕にかけてじわじわぞくぞく
そんなのはじめてでびっくり
十回位聞いたら慣れたのかぞわぞわしなくなったので半分寝ながら聞いてたら、上から一回だけうちわであおがれたみたいな風が顔に掛かって、幻覚つきの曲かーって笑った
その人の声なのか使ってる楽器のせいなのかまだわからない
「君の声がする」
チョコレートが嫌いだと言ってたら、ダンボールでお煎餅をもらいました。
三月で会社を辞めて結婚する先輩から、その仕事を引き継ぐ僕に。
美味しいけど売り切れの事が多いんですよ、と言ったのを覚えていてくれたそうです。
会社近くのスーパーで注文して、昼休みに取ってきてそのまま僕の机の上に置かれて驚きました。
「これは野崎くんの分です。チョコの代わり」
小さめと言ってもダンボール一箱です。
チョコレート一箱なら持ち帰るのも簡単ですが、他でもないチョコレートを拒否したのは僕なので、帰り道ダンボールを小脇に抱えながら買い物をこなす事くらいは苦労のうちに入りません。
僕のことを考えてお煎餅を選んでくれた佐久間さんに、お返しは何がいいかと同じくらい悩まないといけないような気がするのですが。
ドラストで買い物中、それはあっさり決まりました。
小さな商店街の端っこの小さなドラストに、佐久間さんの欲しがっていたもののラスイチを見つけたのです。
『フィリーネ5th year premium BOX.winter limited Edition』
フィリーネと言うシャンプーの発売五周年記念の冬季限定品です。
年明けに発売されてすぐにどこのお店でも売り切れ続出で、フリマアプリなどでは現在元の三倍以上の値段がついてるそうです。
佐久間さんから十回くらい聞いてます。
女の人は可愛い物が好きですね。
これはモ◯サ◯ドのコラボで、ひざ掛けとヘアクリップ付き。
佐久間さんの持ち物はモ◯サ◯ドまみれです。
「もうお返し用意したんだ。仕事が早いねえ」
『フィリーネ〜 limited Edition』を見つけてそう言ったのは、同じ会社の先輩の坂田さんです。
僕がお煎餅を貰った瞬間の目撃者です。
この人は今日チョコレートをもらうたびに
「俺来月まで覚えてられないから今返すね」
とハンドクリームやミニタオル、お菓子なんかをすでに返し終わってます。
モテることに慣れてる人は違います。
なぜ俺の部屋のソファで寝っ転がってくつろいでいるのかと言うと、年明け早々に仕事で大きな失敗をしてしまったので一人でいるとそればっかり考えてしまうのでつらいからだそうです。
一番仲の良い友人宅には泊まり込み過ぎて、流石に今夜は遠慮したと言います。
坂田さんはうちの猫が大好きですが、じっと見過ぎで露骨に避けられています。
「座ってるだけでかっこいいってなんだろうな。ロデムー、おいで」
「チョコですが」
「嫌いな物の名前つけられて可哀想だなー。ウチの子にならない?ロデム」
そういうところも原因だと思う。
「チョコレートじゃないです。チョコです」
「元カノ命名」
違う。帰れ。
と言えたらすっきりしますが、手土産に豚コマ1kgを貰った一人暮らしの男は口を閉じます。
猫にはちゅーるを貰いました。
歓迎すべきお客様でございます。
「本当にどこにあったのソレ。俺も大概探し回ったけど、どこにも残ってなかったよ」
「最寄りのファミ◯近くの小さいツ◯ハです」
「そっかー、俺セコ◯とサツ◯ラ派だから。だから見つからなかったのか。佐久間さんめちゃくちゃ喜ぶよ。いいなー俺があげたかった」
バレンタインちゅーるを差し出しても、一向に距離の縮まらない猫に腕を伸ばしながら、坂田さんは寂しげに言います。
「今日一番、佐久間さんのテンションが上がったの、間違いなく坂田さんがサ◯にゃんのでっかいぬいぐるみあげた時ですよ」
「それはそう」
ドヤ顔とちゅーるを俺に向けて続けます。
「最後だから頑張った。店で一番可愛い顔してるの選んだし。でもやっぱり、欲しがってた物貰える方が嬉しいもんだろ。野崎がそれ渡したら、俺のサ◯にゃんより絶対にテンションぶち上がる。いいなぁ」
ちゅーるを持った手を細かく上下させて、交代を要求されたので受け取りました。
「ホワイトデーまではサ◯にゃんが一番じゃないですか」
「え?…それは、そう?」
「そうですよ」
ちゅーるが僕の手に渡ったのを見た猫が、しっぽを立てて足元にやってきたので、ちゅーるをちょうど良く絞り出すのに集中します。
「なんで俺じゃ駄目なんだよ…」
自分があげた物、食べてくれるの嬉しいですよね。
「晩御飯まだですよね?豚コマで何か作りますか?」と手を洗いながらたずねると、「今魚の気分なんで買ってくる」と坂田さんはうちを出ました。
遅くない?と思っていたら、近所の居酒屋で開きホッケを焼いて持ち帰って来ました。
コンビニでお弁当買ってくるんだと思ってました。
うちで魚なんて焼いた事ないので、初めての匂いに猫がそわそわしてたんですが、持ち帰ってきた当の坂田さんは全くそれに気づいてません。
今ならうちの猫を懐柔出来るのでは。
晩御飯の後、坂田さんが紙袋を二枚くれました。
「可愛い紙袋ぶら下げて出勤できる?だったらこっちの大きいのはいらないけど」
強要じゃなくて。
ホワイトデーまで待ったら、佐久間さんはすぐに有給消化に入って出社しなくなること。
シャンプーはともかく、ひざ掛けは今使うのがベストな時期だと。
出来るだけ早く渡した方が、使ってる姿を長く見られるのではないか。
僕も知っていたはずのことでした。
知っていて、それぞれ繋がっていなかった。
僕はズルくも、俺は何も言ってない事にしてという言葉に甘えて坂田さんの言う通りにしました。
次の日佐久間さんは、本当にめちゃくちゃ喜んでくれて、事務所にくる人全員にひざ掛けを自慢して、何度も何度もありがとうと言ってくれました。
坂田さんは、初めて知ったふうに佐久間さんの自慢を笑って聞いていました。
「ありがとう」