11/23/2023, 1:57:21 PM
落ちていく。彼女の瞳から、ぽたぽた。きらきら。
僕はその頬に手を伸ばした。
「泣かないでよ」
触れて、呼びかけたのに、こっちを見もしない。
「ねえ」
拗ねてるのかな。君が泣くまで気づけなかったから。
「ごめんね」
そう言って、僕より小さな彼女を抱きしめた。
震える肩も、漏れる嗚咽も、僕の心を締め付ける。
どうしたら泣き止んでくれるだろうか。
「そうだ。君が行きたがってた、あのカフェに行こうよ。一緒にパンケーキを食べよう」
すると、彼女が唐突に顔を上げた。よかった。
あーあ、目が真っ赤になってる。
僕は笑顔で彼女を見つめ、その口が開くのを待った。
「……嘘つき」
まだ涙を溜めた瞳が僕を睨む。
……いや、僕じゃなくて、僕の後ろを睨んでいる。
「嘘つき、嘘つき。ずっと一緒にいるって約束したじゃない」
嫌な予感がして僕は振り向いた。
そこには、花に囲まれて棺に横たわる、僕がいた。
広くて白い部屋に、漂う線香の香り。
瞬間、記憶が濁流のように押し寄せる。
ああ、どうして忘れていたんだろう。
僕は昨日、死んだんだった。
彼女の泣き声が聞こえる。
なぜか今まで気づかなかったけれど、見下ろした僕の手の平は透けていた。
透けた腕で彼女をもう一度抱きしめる。
「ごめんね」
落ちていく。彼女の瞳から、もう僕が拭えない涙が。