伝えたい、この想い。
わたしは今まで、たくさんの人に支えられてきた。
生まれてから今まで、わたしがひとりで何かをこなせたことはない。
家族、先生、友達。顔も見たことがない人でさえ。
みんなに支えられている。
嬉しいときに一緒に笑ってくれた。
悲しいときに一緒に泣いてくれた。
成功したときに喜んでくれた。
失敗したときになぐさめてくれた。
背中を押してくれた。
立ち止まることを許してくれた。
自分のいいところに気付かせてくれた。
でもわたしはその人に何をできた?今までもらったものに見合うものを、どれだけ返せた?
手遅れにはしたくなかった。だけど今はまだすこしずつしかできない。ごめんね。
まだわたしはひとりで立てない。でもいつか必ず返す。
わたしもきっといつか、誰かの支えになる。
だから今は、もうすこし待ってほしい。
今は、これだけ伝えたい。
ありがとう、みんな。
この場所は、わたしの宝物であった。
昔、わたしが小さかったころ。わたしたちはこの家に越してきた。
わたしはこの家が好きだ。この白い壁、明るい色のフローリング。黒いソファ。
当たり前と言えば当たり前だ。わたしは昔からずっと、毎日毎日この家で過ごしてきたのだから。
でもそれは、とても不思議なことでもある。
偶然生まれ落ちたこの家族。そして選んだこの家。
はじめは真新しかったこの机も、今はシールを剥がした跡とジュースの染みと、鉛筆の薄い線が拭いても取れないくらいにこびり付いている。
今まで何度ここで食事をしたのだろう。
何度ここでゲームをしたのだろう。
何度、ここで笑ったのだろう。
あとすこし大人になったら、わたしも自分の家というのを見つけるのだろう。
でもきっとそれは、この家にそっくりのはずだ。
この家は、この場所は、わたしの思い出そのものなのだから。
誰もがみんな、なんとか生活している。
最近ときどき、ちょっとした出会いが不思議に感じるようになってきた。
たまたまエレベーターで一緒になった人。たまたま電車で同じ車両に乗った人。たまたま街ですれ違った人。
もう会うことはきっとない。この人もわたしと同じように長い長い物語を持っているのに、わたしはそれを読むことはできない。
たくさんいる人間たちの中で、わたしの物語を知っている人はほんの少し。わたしが知ってる誰かの物語も、ほんの少し。
わたしが今会ったこの人も、きっと数分後には、わたしも向こうも顔さえ覚えていないだろう。わたしは誰かの物語のモブでしかない。
でも、それでもみんな、なんとか自分の物語を進めるのだ。それが誰にも見られなくたって、わたしたちは今日も生きるのだ。
きっともう一生覗けない、あの人の物語。そこには、どんな感情が描かれているのだろう。
そう知らない誰かの物語を想像するとき、ふとわたしは思う。
頑張っているのはわたしだけじゃない。
勝手に仲間を増やしながら、今日もわたしは、わたしの物語を紡ぐ。