くしゃくしゃにになったベッドのシーツに煙草のほろ苦い煙が未だ残っている
ペラペラの紙切れには怒りが混じったさよならの殴り書き
CAMELの空き箱がぐちゃぐちゃになって床に転げ落ちる
最初からお遊びだったんだ、哀しくない、哀しくない
痛みからの、腐った愛からの脱出
分かりきったエンドロールなのに
ぽっかりと空いた隙間からからから風が吹き抜けていって
もう辛くない、なんて言えないけど
朝焼けが身体を突き刺した、今、私は自由だ
紺色が空の半分くらいを侵食する頃。
ふと、夜桜をみにいこうかと誘う。
街の明かりがちらほらとつきはじめる。
少し汚れて霞んだガラスから眩い明かりが染み込んでいくようだった。
都会の夜景に比べてみれば、手のひらサイズと言うにも及ばないほどの灯り。
ぼんやりした月灯りに照らし出された花びら。
そこからは昼間の穏やかなものとは違った華やかさがあった。
現実に在るもののように思えず、でもちょっとずつ私を虜にしていく。
微妙な距離感を保って、彼の後ろを追う。
舞い降りる花びらを追った、ふと視界に入った彼の横顔を美しいと感じたのは何故だろうか。
好き、とかじゃない。よく分からない。でも、月光に映し出された彼のその夢見るような、瞳の奥を覗いてみたいと思った。
どくり、とゆっくりと刻んでいく鼓動が静寂にこだまする。
さらりと靡いた前髪から切れ長な目が覗いて、もっともっと頭がごちゃごちゃでぱんぱんになっていく。なのに身体中はひんやりとした風が当たって涼しい。
頭の奥の熱を冷ますために、早足になって彼の一歩前。
緩く結んだ髪をほどいて、ふわりと桃色の雨を浴びる。春の匂い。
これは恋なのか、そう問うても分からないけど。
「桜、綺麗だね」と一言、独り言のような声で呟けば、夜風は寂しさを纏わせながらその声を溶かしていった。
帰ろっか。
私ばっかりなんて言っても君は私とおんなじ重さの愛をくれない
恋煩い、掻き回した絵の具とくすんでいくピンク
もがいて、喘いだら元通り?馬鹿らしいな。
地球上で、貴方と二人ぼっち。
おはようなんて呑気に言う声があったかい。
地球上の幾千もの人々の中で出会った貴方と私。これからも二人ぼっち。
夢が醒めていく
スノードームのまんまるいガラスに閉じ込められたかのような優しい魔法
まだ覚束ない足がふわふわと柔らかい霧をよぎっていく
虹色の雨がだんだんと身体を溶かして
泡沫の夢が襲う