阿呆鳥

Open App
2/7/2026, 6:18:09 AM

【時計の針】


 実家が時計屋だった。小学生の頃に潰れたが、時計に囲まれて過ごしたのはいい思い出だ。
 仕掛けがある時計もだが、なんの変哲もない時計を眺めているのが好きだった。秒針がコツコツと動き、一周したら分針が動く。分針が一周したら時針が動く。当たり前の事だが、一定の速度で動き続ける針が、私の目にはとても美しく映っていた。
 時計を愛し、店を愛していた私は、時々店の跡地を見に来る。既に飲食チェーン店が立っているが、私には両親の店しか見えない。

「小さい頃はここに時計屋さんあったんだよー」
「時計屋さん? へぇ。今時あったんだ?」

 前を通る男女がそんな話をしていた。女性の方が「家にある時計はここで買ったんだよ」なんて話していて少し誇らしかったのだが、男性の方は「時代遅れじゃない?」なんてバカにしたように笑った。
 頭に血が上って声が出そうになったが、なんとか堪えて唇を噛んだ。どんな店だったかも知らない人に文句を言われるのは、どうしても腹が立つ。女性の方も「確かに、時計屋さんなんてあんまり見ないよね」なんて笑って同意するから、少しの絶望に襲われた。
 生きる上で必要不可欠な時計。時間に支配されている人間にとって、なくてはらならない生活必需品のはずなのに、バカにされるのはとても悔しかった。
 沈んだ気持ちを抱きしめながら、一室に押し込まれている時計たちの元へ向かった。無数の時計の中で、大きな振り子がついた時計は異様な存在感を放っていた。私の生まれたときに特注したという古時計で、すっかり動かなくなってしまったが、お気に入りの一つだ。