長かった。
蒸暑い真夏日。私は陸上競技場のコース上に立っていた。汗が滴る中私はゴールを見つめていた。
短距離走で100mを走る距離は、いざ走ろうと思うとスタートからゴールまでの距離は気が遠くなりそうだ。
『On your mark』
スタート準備の合図が出され私は走る準備にかかった。始まればたった数秒の時間なのに、終わるまでの距離は果てしなく遠い。
試合までの練習や当日のウォーミングアップ、やるべき事は多いのに、終わりは一瞬。
『Set』
ピストルの合図がなるまで周囲に静寂が訪れる。隣のコースの人は今どんな気持ちなのだろう。緊張しているのだろうか。それとも別の事を考えているのだろうか。自分もただでさえ暑苦しい中試合に集中しないと行けないのにこの『距離』を考えてしまう。
パンッ!!
合図と同時に皆が走り始めた。なんてことはないたった100mの距離。普段の生活でもこんな距離を移動するのは簡単なのに、今この瞬間は長い。
脚は重く、身体が前に進みたいのに風がそれを邪魔する。まるでゴールさせないつもりのように。
あともう少し、脚を伸ばせばゴール出来そうなのに実際にはまだ距離がある。私はその先に何時か辿り着くのだろうか。
長い距離を動いた。たった100mなのにそれ以上に動いていた。最後まで私の頭の中ではこの『距離』と走り続けた。長いようで短い時間、短いようで長い道のり。
なんてことはないただこの『距離』を通っただけなのだから。
それは雨の日の出来事でした。
娘の雫が半べそかきながら部屋に入って来たのです。気になった私は声をかけてみました。
「どうしたの?」
「いたいの」
「どこが痛いの?」
「あし...」
話を聞くとどうも部屋の中で遊びまわっていた雫は勢いのあまりタンスの角で足の小指をぶつけたらしい。
それは痛い。
「だっこ...」
雫は腕を広げておんぶを要求してきた。慰めてほしいのだろう。娘を抱えた私は椅子に座りスマホを取り出した。
「もうすぐ晴れるみたいだよ。そしたらお外行こうか」
「うん」
外で遊べると聞いて雫の表情が晴れたみたいだ。
それから少し時間がたち、外の様子を窓から覗いた。若干曇り気味ではあるが太陽の光が眩しくなってきた。
「雫、雨が上がったよ」
「おそといきたい!」
「じゃあ準備しようね」
「うん!!」
こちらの曇も今は晴れやかになっていた。...のはずだった。
ゴツンッ!!
部屋の入り口で鈍い音が聞こえてきた。外は晴れてきてもこちらはまた雨がぶり返しそうだ。
「うわああああああん!!!」