夏
暑くて、汗が肌にまとわりついて、もう嫌だっていつも思うけど
あの空の蒼さに、いつも救われてしまう
ここではないどこか
逃げてもいいよ
それはあなたが弱いわけじゃない
かれらにあなたが負けたわけじゃない
あなたは、あなたに相応しい場所へ行くんだよ
楽しく笑って、大きく深呼吸できる場所
それを見つけられたら、人生は素晴らしいときっと思えるから
ここではないどこかへ、旅立とう
君と最後に会った日
一目で君だと分かった。
中学生だった僕は、君のことが好きだったのに声をかける勇気もなかった。
笑うときに、髪を耳にかける仕草が可愛いと思った。
大人になった君は小さな命をその手に抱えてた。
守るように、慈しむように触れるその手や瞳が、あの頃の君とはもう違うのだと教えた。
けれど、大切に未来を育む君がとても美しく見えた。
君が手を振った先の男性が駆け寄る姿を見届けて、僕は背を向けて歩き出す。
髪を耳にかける君の姿は、思い出の中だけにしまい込んだ。
繊細な花
花開くときはあなたの傍で、美しい私を愛してください
枯れ果てるときは醜い私を見る前に、どうか捨て去ってください。
1年後
夫と離婚してから1年が経った。
仕事もどうにか見つけて、今は平穏な日々を送っている。
彼女が別れたのは、彼が相手を思いやれないことが原因だった。
家事を手伝うこともなく、彼女が残業で遅くなっても労りの言葉一つない。
極めつけは彼女が体調を崩して寝込んでいても、俺の飯はどうするのか?という呆れた質問をしてきた。
ユニークで一緒にいて楽しい人だった。
いつから彼は変わってしまったのか。
それとも初めから彼はそういう人で、彼女が見抜けなかっただけなのか。
そう言えば、離婚する少し前から彼がやけに協力的になっていた。
今まで気にしなかった家事に参加し、仕事から帰るとお疲れさまと声をかけられた。
しかし使ったシンクをそのままにしたり、ごみの分別が出来ていなかったりしていたので細かい修正は彼女がしていた。
むしろ余計に疲れてしまった。
けれど、少しだけ。
彼をただ愛していられた頃に戻れた気もした。
大人になってしばらく経ってしまったから、純粋な感情だけでは共に生きていくことは出来ないと知ってしまっただけだ。
せめてもう1年、彼が早く気付いてくれれば。
もしかしたら、違う人生があったのかもしれない。
そんな空想を彼女は一人笑い捨てた。