あなたがいたから
あなたがいたから、私は今日も息をしている
相合傘
突然降り出した雨を見上げてる生徒たちを横目に、
鞄にしまい込んでいた折りたたみ傘を広げる。
念のため入れてて良かった、と安心しているとクラスメイトの彼が雨を見上げていた。
いつも見ていることを気付かれないようにしていた、私の好きな人。
今は傘がなくて困ってるし、声をかけても良いかな。
いや、他の人もいるしあんまり話したことないのに迷惑かな。
そうやって悩んでいると、一人の女生徒が彼に話しかけた。
彼が頷くと、彼女の愛らしい水色の傘に二人が並んで雨の中を歩き出した。
彼が傘を持ってあげてて、彼女が濡れないように傘を少し傾けていた。
遠目からでも楽しそうな二人だった。
私は二人を見ないように傘を前に傾けて歩き出した。
歩くたびに、ぽっかり空いた相合傘は寂しさと恥ずかしさで埋まっていった。
落下
前に好きだって言ってたよね。
そう言って渡されたのは、お菓子のおまけについてくるマスコット。
あくびをした猫が愛らしく手の上に乗っていた。
よく覚えてたね。
本当にちょっとした会話だったから、笑って彼に言った。
君との話だから覚えてたんだよ。
猫の頭を撫でながら君は笑う。
うわ、やられてしまった!
未来
君が大人になる頃に、
その言葉が希望と幸福の意味になりますように。
1年前
男は1年前の過去に行けることが出来るようになった。
1年前の過去。
妻から離婚を言い渡される1ヶ月前。
男は良き夫となるように努めた。
妻と過ごす時間を増やし、今までしなかった家事や料理をするようになった。
それでも妻から離婚を言い渡された。
あなたと過ごす時間が苦痛だった。
私の都合も気持ちもあなたには関係なかった。
あなたはいつも自分のことばかりで、私のために何かをしてくれることはなかった。
男は身勝手だった。
良き夫を演じようとしたのも、妻と離れたくないという自分の気持ちだけだった。
そんな浅はかさを妻は見抜いていた。
結局、男は離婚を言い渡された。
二度目の絶望は、男のすべてを打ちのめした。