空が憎い
憧れのあの子が、僕の友人と
肩を寄せ合って一本の傘で帰っていった
早く雨が上がればいいのに
推しの影響で、珍しくゲームを買った。
2016年発売の2DアクションRPGで
インディー作品ながらクオリティが高い。
操作が難しすぎるあまり、長らく放置していたが
気が向いて再び触ると、みるみる慣れていった。
眼鏡を新調して、画面がよく見えるようになったし
すっかりハマって攻略が進むようになった。
いわゆる死にゲーで、数え切れないほど死ぬ。
ボスはもちろんのこと、雑魚敵もまあまあ手強い。
ただ、一番の死因はボスでも雑魚敵でもない。
高所からの落下死、それが最多だろう。
足を踏み外す、
ジャンプに失敗する、
敵や罠に吹き飛ばされる……
探索中でも戦闘中でも、とにかく落ちる。
どれだけ屈強に鍛え上げた、現在Lv. 70のキャラでも
高低差に抗うことはできないようだ。
未来に対する良い展望
そんなものはない
先々のことは不安でいっぱい
だからあまり直視したくない
「なんとかなってくれ」と思って
今を生きるので精一杯です
一年前の今頃は
「こんな仕事辞めてやりたい」
「あの人が退職するときには、この想いを伝えたい」
おそらくそう思っていた
一年が経って
私はずるずると今の仕事を続けているし
あの人は自分の道に進むために職場を去った
胸に秘めた想いは、伝えることなく干からびてきた
一人、大好きな作家がいた。
年齢はおろか性別も不詳、
謎に包まれたホラー作家。
人間の心の闇に切り込む独自の感性に、
精神的に不安定だった私はすっかり魅了された。
作家デビュー当時から追いかけていた。
ファンレターを送るほどに心酔して、
公式通販で申し込んだサイン入りの文庫本や
手書きの名刺が、何よりの宝物だった。
私の心の穴を、そっと埋めてくれる存在だった。
一作目との出会いから十年も経っただろうか。
いつの間にか、堂々と顔出しして
取材や講演会を引き受けているのを知った。
神秘のベールに包まれていた
唯一無二の「孤高のホラー作家」は
いまや、子煩悩な育児奮闘記の出版をしていた。
私の中で、神のように崇めていたその人は
当たり前だけど神ではなくて、一人の人間だった。
あたたかく、大切な家族に囲まれていた。
私は勝手に、取り残されたような寂しさを覚えた。
※この投稿はフィクションです