#72 「ずっとこのまま」
僕は君の隣でいたいと思う
が、自分の気持ちを理解していない僕は
君の問いかけに答えられなかった
後悔している
だって一緒にいればいるほど楽しくて
一緒にいることすら好きになっていく
ずっと過ごしたいと思えるほどに
けど手が届かなくなってから気付く
僕は君のことが好きで独占したかったんだ、と
自分の行いが悔いになるのはこれで何度目だろうか
#71「ゆずの香り」
コポコポコポ…とお湯の湧き出る音が響く
その上に5つほどのゆずがぷかぷかと浮いている
甘酸っぱい、いい香りを放っている
疲れを忘れさせるひと時だ
ゴーン…
除夜の鐘も鳴っている
もう、今年も終わりだ
良いお年を
そして良い新年を迎えられますように
#70「セーター」
部屋の外で北風がピューっと鳴る
もう冬だ。
私は部屋の中の冬物を探すことにした
一昨年婆ちゃんが作ってくれた毛糸のセーター
婆ちゃんの家は遠くて会えないけど
セーターを通して婆ちゃんと繋がる
毛糸を通して毛糸工場の人と繋がる
工場の人の家族、材料の生産者や、色々な人と
ずっとずっと繋がっていく
#69「カーテン」
もうすぐ春が来るよ、暖かい3月
カーテンがヒラヒラと風で揺れ
気持ちいい風がそよそよと吹いてくる
僕は布団の上で外を眺めた
外からは子供の元気な声が聞こえる
風邪をひいていて、遊びに行けない
僕は子供の姿を見ないようにそっと
カーテンを閉めて眠りについた
#68「力を込めて」
僕は今日ある友達とライブに来ていた
彼女はとても方向音痴で、すぐ迷子になる
ここは人がとても多い
少しでも目を離せば迷子になりそうだ
彼女は不安そうな手で
僕のカバンの端を握る
それを僕は、僕の右手を握らせた
そうすると力を込めて握り返してくれたんだ
絶対離れないよ、と手で伝えてきた