『たくさんの思い出』
部屋の掃除をしていたらアルバムを見つけた。中には自分が赤ちゃんの頃の写真や小学校入学時の写真などさまざまな写真が載っていた。
懐かしい。自分にもこんな頃があったのだ。
ページを捲るにつれて、写真の中の自分が大きくなっていく。当時のエピソードを思い出すこともあり改めて自分の成長を確かめるのは少し照れくさかった。
一通りの写真に目を通し、アルバムから自分が載った写真を取り出していく。全ての写真を取り出すと予想より少し多かった。油性ペンを手に取り、写真に向かい合う。それからはひたすら自分だけを塗り潰し、これまでの思い出を一つ残らず消していく。
その後、塗り潰した写真たちは燃やした。これで自分の写真は見つからないだろう。立つ鳥跡を濁さず、全て綺麗に掃除しておかなければ。遺影にあんな楽しそうな写真を使われてたまるか。
ひどく質素になった部屋の机には遺書とロープが置かれていた。
『スリル』
手のひらサイズに切り取られた紙を折り、紙を更に小さくする。紙には、定義や成り立ち、記述問題の長文解答が書かれている。小さくなって見える範囲が限られた。
服はオーバーサイズの物を用意した。袖口からは折った紙が入るかの確認も忘れない。
俺は今日の試験でカンニングをする。
カンニングペーパーを仕込み、紙に書いた解答をバレないよう解答用紙に写していくのだ。
試験中は教壇から試験監督が監視しているから、試験前に少し工夫しておく。前から問題用紙や解答用紙が配られている最中に、カンニングペーパーを机に置き、その上から用紙で隠す。後は、カンニングペーパーの存在がバレないように問題用紙で隠しながら解答を書く。解き終わったら袖口にカンニングペーパーを押し込み、何食わぬ顔でペンを置いて解答を終えるのだ。
前方から教師が用紙を配り始め、これからの行為に心臓が僅かに速まる。
体が言いようのない緊張感に包まれた。
『飛べない翼』
プツ、プツ、プツ。羽をもぎり取る。
カタン、カタン、カタン。布を織る。
翼から生えていた羽を抜き、布の材料として使う。
布が織られていくごとに、翼から羽は無くなっていった。布が仕上がった頃には、翼はもう使い物にならなくなった。とっくに飛ぶことなんて出来なくなった。
仕上がった布は自賛できるほどの物になった。これで、飛べなくなった私はずっと貴方のお側にいることができる。
愛しい貴方へ、どうぞこの布をお使いください。
貴方が私だけの人になってくれずとも、私はずっと貴方のお側に居たいのです。
『あなたとわたし』
妹が泣いていた。家に帰って部屋へ向かうと、扉越しに啜り泣く声が聞こえた。中では、妹が隅の方で膝を抱えるようにして座っていた。
妹は優しくて人のことをよく見ている。我慢強くて責任感もある。けれど、何でも自分1人で抱えこもうとする悪い癖がある。
私に気づいて妹の顔が上がった。そしてすぐに涙を拭き取って、何でもないような顔をしようとする。
私たちは生まれた時からずっと一緒に過ごしてきた。誰よりも近くであなたを見てきたし、誰よりもあなたの幸せを望んでいる自信がある。
私はお姉ちゃんだ。きっとあなたの力になってみせる。だから、もっとお姉ちゃんに頼って。
『理想郷』
目を開けると自分の好きなものばかりだ。甘いお菓子に可愛いお人形、側には綺麗なドレスが吊り下げられている。たくさん悩んで作ったこの部屋は私の好きなものだけで作った。大変だったけど、どこを見ても私の理想。好きに囲まれた幸せな部屋だ。
瞼が重い。
「先輩、依頼された住所ってここですよね。めっちゃ異臭するですけど」
「残念ながらここで間違いない。先に室内の確認だ」
「うわ、中もめっちゃ汚れてますよ」
「食べ物は腐ってるし、部屋はゴミと虫だらけ。服とかもボロボロ、あ奥に誰かいません?」
「この部屋の家主だろう。写真で見た時よりだいぶ痩せたな。ほとんど骨と皮だ」
「えこれで生きてるんですか?人ってこんななれるんですね」
「新薬のせいだろうな。副作用で幻覚などの症状が出るらしい。ここまでとは聞いてなかったが」
「相変わらずヤバいですねウチ。俺もう1秒もこんなとこ居たくないですよ」
「同感だ、早くやることやって帰るぞ」
何か匂う。焦げ臭い。