誰かしら？
スーパーのレジ係の人
見覚えはあっても
どこの誰だったか

芸能人の名前も
出てこない
何かのドラマに出ていた
主役の中堅女優

記憶がゆるゆるになる
イメージの中　
顔も姿も
小さな癖すらわかっているのに
それに貼り付けられた
姓名が出てこない

固まって
寒さに嬲られるままに
なっていた庭が
動き出した

ブルーベリーの木は
赤いプクプクした芽を
いつの間にか揃え

木香薔薇も
あちこち
枝を伸ばし放題

芽吹きのときが来た

蝋梅だけが
黄色い透き通った花を
ほとほと足元に落とし
さよならだよーと
残り香を残す

人が集まる所へ行って
同世代の人と話した
私はね
親の言う通り就職して
親の勧める人と結婚したんですよ
と　残念そうに言った

あの日の温もり
あの日から　その人の言葉を
時々おもいだす
見かけはガハハな感じなのに
話すと箱入り娘で素直
まるでひだまりのような
その人の結婚が
けっして残念なものではないだろうと

動物園が好きになった
去年は神戸に2回も行った
ネコ目当てだ
何とかのひとつ覚えのように
かわいいを連発してしまう

ベビーカーの親子連れ
聞き慣れない言葉
コツメカワウソを指差して
しゃべっている
そのお母さんが
lovely!だか　cute!だか
言ったような

私の耳が
かわいい言葉を掘り出した

記録は
自分のため
人のため
役に立つものを残そうとする

父が使っていた小屋を
片付けていたら
小さな帳面を見つけた
鉛筆書きで
種をまく時期
収穫のコツが書かれている
この場所の
春夏秋冬の知恵が詰まった一冊
残された一冊