台風は温帯低気圧に変わったが
今日も雨は降り続く
用があって出掛けるが
スニーカーはメッシュの夏用
水が靴の中に入り込み
靴下はびしょ濡れだ
私の足をすっかり濡らした雨は
地中に入り海に出て
また蒸発して空に帰るらしい
どんなに汚れた水でも
この永遠のサイクルで
清浄な水に戻るのはすばらしい
足元を見つめながら
歩いていると
いつの間にか私は
家の前に立っていた
このままでは風邪をひく
私は玄関に入り
すばやく靴下を脱いだ
歳をとって
膝や腰が痛くて動けなくなったら
大きなスクリーンを買いたい
窓くらい大きなテレビでもいい
日がな一日 好きな風景を映すのだ
私はインドネシアの
湿気のある空気が好きなので
熱帯林のストリートビューを
映してもらいたい
冒険に行くことは出来ないが
インドネシアの森を
毎日ながめたい
つきつめて考えないと
自分の理想郷はわからない
私は 木々に包まれて
眠りたい
生まれ育った家は
今でも懐かしく思う
庭にはぐるりと植物が植えてあった
こでまり 柿の木 柚子の木 松
南天 ヤツデ アオイ
そのほか
名前も知らない植木たち
18歳まで その家に住んだが
今でも枯れないでそこにあることに驚く
ひどく間延びしているが
たしかに記憶の木だ
30年前に植えたという栗の木
枝を広げて空を覆うほど
秋には小粒のイガを落とす
朝早く起きないと
イノシシがやって来るそうだ
子供の頃は自信がなかったので
よく もう一つの物語を考えた
兄弟が多くて服はお下がり
家も昔ながらの瓦屋根で
台風になれば雨もり
そこでお金持ちのひとりっ子ならと
考えるのである
近所に住む年上の女の子の話を
同級生はよく知っていた
あの おねえさんはひとりっ子
お部屋は2階のふた部屋
ベッドルームと勉強部屋
同級生はいいなと言った
あのお家なら
台風がきても大丈夫そうだ
すてきなレースのカーテン
2階に出っ張ったひとりっ子の部屋
この家のあととり娘
だんだん私には
閉じ込められたお姫様のように
見えてきた
ずっとここにいなければならないなんて
窮屈だなと思った
家以外の場所で眠る時は
怖い怪談話は
御法度である
ホテルの部屋などは
恐ろしい由来しか
想像できない
テレビの特番は消して
真に迫った投稿は
明日の朝に回し
暗がりの中に
動く影を感じると
照明を全てつける
一度 考えつくと
妄想はふくらむらしい