提灯アンコウはゆらゆらと尾鰭を揺らして霧の中を泳いでいた。光と霧の狭間で、安牌に見せかけて黙テンしている。だがそれは狡猾な罠である。恐怖に抗う為に目先の光に飛び込む獲物は後を絶たない。
光の照らす場所は安全とは限らない。
題『光と霧の狭間で』
速度制限をする砂時計は、バターを混ぜた小麦粉のようにドロドロな砂粒に対して「この先工事中」という電光掲示板を明滅させている。待たされている砂からは苦情を示唆するクラクションが鳴り響く。ガラス容器はホイッスルを吹いて緑色の旗を振っている。
砂時計の音は鳴り止まない。
題『砂時計の音』
天秤座が空から降りてきた。
「君の身の安全と誰かの安眠、どちらが大事だろうか?」天秤は片側に傾いていたが、どちらかは分からなかった。後日、新星が発見され"天秤座を襲う大隈座"として星図表に記録された。寝息をたてる丑三つ時の住宅街にチリンチリンと熊よけの鈴が鳴り響く。
題『消えた星図』
誰のことも無条件に愛してくれるはずの家は、恋の氷河期に突入した。テニスの40-40からの長いラリーのように毎日ギャーギャーと叫び声がしていた時代は、一転して静寂に包まれた。もはや叫ぶ気力もない老老介護の生活。子どもは巣立ち、故郷へと戻ってくる気配はない。ノルウェーの大地のように冷たく、生命の炎をチロ火にする。だが、それがどうした?
愛から恋を引いたら、どうでもいいという感情だけが残った。
題『愛 ー 恋 = ?』
秋は梨。秋になると、ほとんど水分だけで空っぽなのに「待ってました」とばかりに店頭に並ぶ。だが開店と同時に青果コーナーを素通りして肉へ向かう。梨は一部のベジタリアンの鬼に好まれる贈答品でしかない。梨より空虚なハラワタの私にそんな余裕はない。
肉を食べねば飢えてしまう。
食べたい気持ちはあっても、果物は主食を削らなければ食べれないものだ。
題『梨』