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11/5/2023, 1:32:59 PM

「一筋の光」

⚠️監禁表現有り
苦手な方は自衛をお願い致します。


薄暗い部屋の隅で蹲る。
窓も時計すらない部屋に閉じ込められた私は、為す術なく彼に与えられた物で暇を潰す。

もう時間感覚すらとっくに鈍ってしまった。
彼が帰ってくるまで暇を潰すこと、これがこの部屋で出来る唯一の仕事だ。

何故こうなったのだろう。
たった数ヶ月前まで私はごく普通の会社員だった筈だ。とびきり顔が良いわけでもスタイルが良いわけでも無い。どちらかと言えば人づきあいも苦手なただの女。

こんな私がなんでこんなことに…
はぁー、

「どうしたの?そんなため息ついて、」
明るい声で私に話しかけてくるのは、私を閉じ込めた張本人だ。部屋に入ってきたのにも気づかなかった。

「ねぇ、そろそろだんまり辞めてくんない?俺も寂しくてさ〜」

いつも通り無視を貫く私に、機嫌を悪くしたのか少し声を低くする彼。

早く出して下さい。
威圧感の有る彼を前に震える声で言葉を放つ。

「ちょーっと、無理な話だよね。それはさ」
折角捕まえた子を離すわけないじゃんと笑いながらいう彼は私にとっては狂気の沙汰でしかない。

「あっ、そういえば、明日から出張が入っちゃってさ。君を1人にするのは凄く心苦しいんだけど…」
と思い出したように、淡々と話を進める彼。

ご飯はここに作り置きがあるとか、困ったらここに電話してとか。
ひと通り話して満足したのか、ご飯取ってくるねと残し部屋を出ていった。

なんと素敵な話だろう。彼が居なくなるなんて絶好のチャンスなのだ。

どうやって脱出するかはもう決まっている。この家の鍵は毎回開け閉めしたあと、棚の上に置かれている。
彼は気づいてないと思っているのだろうが、私は知っているのだ。

翌日いつも通り仕事に出かけて行った彼を静かに見送る。

それから1時間ほど経っただろうか。
普段通り棚の上に置かれた鍵を取って、玄関に走った。

今日でこんな生活ともおさらばだ!
そう思いながら玄関の鍵穴に鍵を差し込んだ。

筈だった。

鍵を回す前に玄関の扉が開き出張に行った筈の彼が入ってくる。

逃げられると思ったの?逆に気付いてないと思った?

あぁ、
最初から仕組まれていた逃走劇。希望に満ちた一筋の光は、また薄暗い暗闇の中に消えていった。